11話(後編)
「あれ、葵?」
名前を呼ばれて葵は驚き、振り返る。
振り返った先にいたのは、幼なじみの面々でこちらも驚いた顔をしている(数名除く)。
それもそのはず。彼らの中で今日、葵は欠席ということになっている。
それが、まさかこんな街中で遭遇するとは誰も思っていなかっただろう。
何故、今日欠席の筈の葵がこんなところに?
会えば必ず聞かれると思っていた通りの質問がぶつけられた。
「それは…だな…」
葵は学校を出た後、古本屋に立ち寄っていた。そこで見つけた本が面白く、
2時間以上店先で読みふけっていた所を、運悪く隣のゲーセンから出てきたつばさ達に発見されたというわけだ。
会わないようにと注意していたつもりだったが、甘かった。
駅前にいれば会う確率は高い。さっさと帰っていれば会うこともなかったのだが…。
(なんて言い訳すればいい…)
まさか学校に行ったが、授業が終わってたなんて言えない。言えば、馬鹿にされるのは目に見えているからだ。
何か言い訳を考えるがなかなか妙案が浮かばない。
焦っている葵を見て、勘の良い湊が何か察したのか思案顔になる。
「この葵の焦りよう…何かあるねぇ…。まさか、学校行ったはいいけど、授業が終わってたとか?
桂矢が欠席の理由は寝坊だって言ってたしね。ま、いくらなんでもそれはないか……」
「なんでわかったんだ…;?」
「えっ当たりなの;?適当に言ってみただけなんだけど…。」
ずばり言い当てられて、葵は鳶に顔をつつかれたような顔をしている。
湊的には思いついた事を適当に言ってみただけなのだが、見事正解だったようだ。
湊や他の面子は拍子抜けしたような顔をしているが、それはすぐ意地の悪い笑みへと変わる。
「葵ってば、マヌケね~。聖陵史上初じゃないかしら?授業が終わってから登校なんて。」
「うんうん!葵ちゃん、超マヌケ!響ちゃんでもそんなことしたことないよ!」
マヌケだなぁと、上から目線で真珠と響子にげらげら笑われる。
真珠もだが、何より響子に笑われる事ほど屈辱な事はなかった。
だが、今回ばかりは事実なので返せる言葉がない。悔しそうに歯をくいしばると、響子は調子に乗って更に笑う。
そこへ救いの手を差し伸べてきたのは意外にも響子の兄である豊だった。
「調子にのんなっ」
「あいてー!」
グーで思い切り殴られて、響子は声をあげて蹲る。
先ほどのゲーセンで迷惑かけられた事もあって、豊は響子にかなり頭にきていた。
これ以上何かしようものなら、殴るぞと言うと小さく「もう殴ってる」と頭を抑えながら呟く。
「ごめんねー葵君。」
「あ、あぁ…。」
「まぁ、今回のことは僕もマヌケだと思うけど…それより、葵君が僕らに隠し事しようとしたことにはちょっと傷ついたなー。」
にたっと笑う豊の顔は何か企んでいるようだった。
そうはわかっているが、やはり今回は葵は逆らうことが出来ない。
少し警戒するように葵は、豊を見る。
「何が望みだよ…」
「そんな警戒しないでよ。これからみんなでご飯食べに行くことになってるんだけどさ、
それより久しぶりに葵君の手料理が食べたいなーと思ってさ♪」
「それは、つまり…夕飯を作れと?」
そうっと豊は頷く。
葵の料理はこの面子の中でも、彼のエプロン姿と共になかなか評判が良い。
他にも掃除や洗濯、幼い頃からよく手伝ってきたおかげで家事全般は得意な方だ。
予想外の事を要求されて、葵は少し拍子抜けしたが、そんなもので良ければいくらでもやると今日はじめての笑顔を見せた。
何はともあれ、これで一件落着したようだ。
嘘なんかつこうとせずに、最初から素直に喋っていれば良かった…と思いつつ、やはり来週からは寝坊をしないように
心掛けようとあらためて葵は心の中で誓ったのであった。
「わーい!葵の手料理が食べれるぅぅー!私、グラタンがいいな!」
「いやいや~ここは、肉じゃがでしょ。男が奥さんに作ってほしい定番料理♪」
「聖…てめぇ…あれ、ところで…つばさ達はどーしたんだ?姿が見えないけど…」
今頃だが、つばさと杏の姿がないことに気づいた。辺りを見回すがやはり2人はいない。
疑問符を浮かべる葵に、渚が陽気な声で答えを告げる。
「あぁ、つばさ達なら帰ったよ。湊を怒らせちゃって、こってりしぼられたみたい。
「般若が見える」とか言ってなんかすっごーく疲れた感じで帰ってたよ。」
「へ、へぇ…;」
その様子が頭に浮かぶようで葵は苦笑した。
湊が本気できれたのは久方ぶりだったことだろう。
それをくらったつばさ達は相当ショックを受けたに違いない。
少し葵はつばさ達に同情した。
「さぁさ、そんなことより早く行こうよ、葵の家。あ、葵、期待してるからね、葵の愛情たっぷり詰まった手料理♪」
「気色悪い事言うな!」
「えー、俺、葵の愛情たっぷりの手料理がたべてぇなー。」
悪意たっぷりの湊に反して、優はあくまで素直な意見を述べてくる。
どちらにもつっこみどころはあるが、少しつっこみすぎてだんだん疲れてきて、言葉のかわりにため息がでる。
色々あった、1日が過ぎていく。
久しぶりにみんなで遊んだ時間は凄く楽しくてあっという間だ。
きっと今日はこのあと、もっと楽しい時間が待っているであろう。
そう誰もが心の中に思いながら、歩を進めていった。
wrote by Kyoko