1983年。 あの頃。
たばこ屋の横の映画館のポスターに
タバコをふかした男の白黒のポスターが貼られた
そこには漢字でこう書かれていた
「竜二」
1983年公開 / 92分 / 日本 (米題:Ryuji)
監督: 川島透
脚本: 鈴木明夫(金子正次)
企画/プロデューサー: 大石忠敏
撮影: 川越道彦
美術: 小池直実
音楽: 東京サウンド
主題歌: 萩原健一 『ララバイ』
製作会社: PRODUCTION RYUJI
配給: 東映セントラルフィルム
キャスト
金子正次/永島暎子/北公次/佐藤金造/もも/岩尾正隆/小川亜佐美/銀粉蝶他
妻と娘のために足を洗って堅気になった男の焦燥と葛藤を描いたヤクザ映画。自身ヤクザの世界に身を置いたことのある金子正次が脚本(鈴木明夫は彼のペンネーム)・主演をこなしたが、本作完成直後にガンのため亡くなった。新宿にシマを持つ三東会の幹部、花城竜二。3年前に拘置所に入れられて以来、妻と娘には会っていない。どうしても妻と娘と暮らしたい竜二は足を洗い堅気の世界へ踏み込み、妻と娘とともに新たな人生を歩み始めるが……。
(allcinemaより抜粋)
Wikipedia:竜二(映画)
*****
本作も昔、記事にあげたことあるのですが
私の思い出話になっていますので
今回はしっかりと解説をばやっていきたいと思います
※よって今回もネタバレとなります。ご了承くださいまし。。
本作で主演を務めた金子正次さんは
1983年の東映系で封切された8日後、
入院先の病院で息を引き取る。
彼は末期の胃がんだった
本人には宣告されていなかったと聞くが
自分の身体のことは自分が判っているだろう
アンダーグラウンドの舞台俳優だった彼は81年に大量の吐血があり緊急入院している
それから何かを残そうと私財を擲ち、知人らに出資を募り、自主製作で映画製作へと突き進む
「竜二」が出来るまでの話しは
高橋克典主演の「竜二Forever」(2002)で詳しく描かれている
そして、83年の封切の際も
東映の前には主演金子氏の逝去を告げる看板が出されていたのを記憶している
映画は各所で称賛され「竜二」と共に金子正次本人も伝説化される
では物語も追っていきましょう
最初にテロップが流される
これは全国ロードショーとなった封切後のテロップである
ファーストシーンは、
竜二が目覚める所から始まる
ベットで気がつくと女が横で着替えていた
「誰だ、お前」
「やだ、わすれちゃったの?」
なんてやり取りから始まる
起きだし照れ笑いの竜二の顔にタイトル
萩原健一の「ララバイ」と共にオープニングのクレジット
主要キャストの
竜二=金子正次
舎弟二人の
ひろし=北公次
直=佐藤金造(現桜金造)
妻のまり子=永島瑛子
が紹介される
そしていきなりシバかれる直w
初っ端からのシバかれるシーン、
竜二の喋り口調、佇まいや雰囲気の妙なリアル感がある
これまでのやくざ映画のどすの効いた声や風貌、
それらを排し、「雰囲気」のリアルさだけでヤクザを演じている
この妙なリアル感が本作を最後まで引っ張っていく
直は竜二の兄弟筋とも言える立場にいるカズと女のことで揉め、カズに女の前で手を出してしまっていた
詫びに指を詰めると言う直を制止する竜二
カズ=菊池健二
演じる菊池健二氏は金子と仲の良い芝居仲間だったようだ
カズに詫びを入れる竜二と直
カズは竜二のしのぎの賭場に顔を出していいかと言う
賭場と言ってもマンションの一室で行うルーレットだ
カズは女とそこに顔を出すようになる
カズは薬に手を出していてシャブ欲しさに竜二に金を無心する
一方、竜二は名うてのヤクザとしてハクを付けていく
竜二の2番目の舎弟、ひろし
ヤクザっぽくない優男
彼が竜二の部屋を掃除していると押し入れから赤ん坊の玩具が出てくる
そこから回想シーンになる・・
それは竜二の一人娘が生れるころの楽しい思い出からの記憶だった
妻はまり子
生れた娘はあや=金子もも
後に3歳になった娘を金子の実の娘「もも」が演じている
この金子桃さんは今ではラジオパーソナリティとして活躍中だ
妻まり子は最初聖子ちゃんカットに近い髪型
それからニューウェーブの時代、ショートが流行り、まり子もショートになる
この女性の髪形の遍歴もリアル
アイドルさんたちもこぞってショートになっていきましたね
竜二もまだ駆け出しでみんなで楽しく暮らしていたが
竜二が借金の追い込みをかけたところから傷害事件が起き、逮捕されてしまう
この光と影の竜二の啖呵シーン
ここだけ幻想的な往年のやくざ映画のようなシーンになる
私の初見はこのシーンでイチコロされたw
これまでの「妙にリアル」な世界観の中に急に入ってきたこのシーンに痺れるのだ
それに合わせ、大きくなっていくサイレンの音
竜二は捕まってしまう
300万の保釈金が必要となるがそんな金はなかった
まり子は実家に掛け合い、竜二と別れることで金を出してもらう
激怒する竜二
しかし金のことはどうしようもなかった
別れを決める2人
3年前のことだった
それから竜二はがむしゃらに働き、一目を置かれるいっぱしのヤクザとなる
それも義理と人情を兼ねる好かれるヤクザになっていく
ビニ本屋の店主のところへ顔を出す竜二
みかじめ料を払おうとする店主に竜二はいらないと言う
もうこんなものを払わなくてもこの町では大手を振って商売できるんだと
時代は変わっていったのだ
そんな時代に虚しさを覚える竜二
ある日
居酒屋の元竜二の兄貴分だった関谷に相談する
関谷=岩尾正隆
竜二が心を許せる兄貴分だ
ここでの関谷との会話が泣ける
「逢いてえだろ」
「逢いたいすねえ」
あくる日に組の若頭新田の依頼で取り立てに行く
仕事を終え喫茶フランソワを出る竜二
街の喧騒だけ耳に入るが人っ子一人いない
おもむろに胸ポケットに有った名刺を捨てる
組に戻り堅気になることを告げると兄貴分たちはニヤニヤしている
竜二が辞めるとその分のしのぎが自分らに回ってくるのだ
そのかわり直とひろしのことはよろしく頼むと言う
そうじゃないと「竜二はいつでも戻ってくるぜ」と凄む
その晩、新宿の夜を惜しむように遊ぶ3人
新宿西口、
そして歌舞伎町辺り
ナレーションで有名なあの仁義の口上が聞こえてくる
花の都にあこがれて 飛んできました一羽鳥
縮緬三尺ぱらりと散って 花の都は大東京です
金波銀波のネオンの下で 男ばかりがヤクザでありません
女ばかりが華でもありません
六尺足らずの五尺の身体 今日もゴロゴロ 明日もゴロゴロ
ゴロ寝さまよう私にも たった一人のガキがいました
そのガキも無情にはなればなれ 独り寂しくメリケンアパート暮しよ
今日も降りますドスの雨 刺せば監獄 刺されば地獄
私は本日ここに力尽き、引退いたしますが
ヤクザもんは永遠に不滅です
そしてまり子に電話を掛ける
「堅気になってやったよぉ」
「こちらこそ・・よろしくお願いいたします」
九州に迎えに行き、親に挨拶する竜二
親戚らも歓迎する
再就職先は関谷の計らいで卸酒屋の配送員だ
歩いて仕事へ出かけ
仕事をし、
帰ってくる
家でビール一杯
これだなー!
とベタではあるが共感の持てる一杯
家族とのささやかながら幸せな日々が続く
三か月が経ち、給与もちょっとだけ上がった
関谷の居酒屋に顔を出す
その帰り、一人の男が竜二を待っていた
兄弟分のカズだった
彼はクスリにおぼれ以前の覇気は失っていた
アテもなく、竜二に金の無心に来たのだった
竜二も貸せるほどの金は出せない
給料袋にも手は出せない
自分の小遣い銭を少ししか渡す事しかできなかった
竜二は家に帰り、まり子に給与袋を渡す
ちょっとだけど増えてると喜ぶまり子
こんな金でよくやっていけてると感心しつつも自分の無力さに落ち込む竜二
窓を開け、
「この窓からは何にもみえねえなあ」
と呟く
そして春になったころ
カズは死んだ
何もない小さな汚いアパートで
身よりは女だけだった
女に冷たくされ仕方なく帰るところ
アパートの軒下で直に会う
直はカズの女とデキていた
言葉も交わさず出ていく竜二
もう彼をしかることも出来ない
またある日には
ひろしが遊びに来たいと来る
ひろしはハクがつき立派になっていた
竜二はひろしに直にあったことを言う
お前が直を助けてやれるのかと聞く竜二に
ひろしは無言になってしまう
ヒロシが帰った後、
まり子は「ひろしちゃんカッコよかったわね」といい
身体を求める
まり子はもとはヤクザの竜二と一緒になったのだ
ひろしの今の姿を見てカッコいいとも思うが
それと同時に竜二がまた行ってしまわないか不安でもあるのだ
仕事では同乗していたオッサンがヤクザの知り合いの話をする
オッサンは無名時代の笹野高史さん
しつこく話すものだから竜二はオッサンの手に焼きを入れてしまう
車は渋滞で止まったままだ・・
その帰り道、いつもの商店街を歩いてると、
肉屋で特売りに並ぶまり子の姿を見かけてしまう
その場に立ち止まる竜二
まり子が気づき、
2人は顔を見合わせる
そして・・・
竜二はその場を逃げるようにその場を引き返し去っていく
丁度この小さな通りは
家の反対方向に新宿副都心の見える場所だ
竜二はまた新宿へ帰っていった
まり子はそれを悟り、
あやに「またおばあちゃんのところに行こうか」という
オープニングに流れたショーケンの「ララバイ」がまた流れ
夜の新宿を闊歩する竜二の姿をとらえる
「竜二」は
バブルへと突き進む80年代の日本の姿にもとらえられることも出来る
家庭を顧みず、自分のアイデンティティの確立のために次へと進もうとする竜二
70年代から80年代は家庭を犠牲にし働くことが美徳とされていた時代
今とは考え方が根本的に違う
とにかくがむしゃらに突き進む日本人たちの時代
私もあの場から逃げ去るのは違うが、
新宿を颯爽と歩く最後の竜二をカッコいいと思ったものだった
しかし、あそこから逃げ去る人間臭さも本作の魅力ともなる
また本作は、そんなご時世に対してのアンチテーゼとも取れる
それは83年に撮られた割には70年代ぽい乾いた画質と
どこか懐古的なロケーション
かぐや姫の「神田川」に代表される四畳半フォークの雰囲気がある
流れる流行歌も70年代のものだ
この街も変わったと言いつつも、変わらない昔ながらの義理堅い男でいる竜二
己を捨て家族のために働くのも良し
元のさやへ戻るも良し
どちらが良いか問う作品でもある
この派手なドンパチがあるわけじゃあ無い
青春映画のようなやくざ映画
本作が礎となり、東映にネオヤクザムービーとしての新機軸が生れる
本作の妙にリアルな世界観
リアルさがあるからこその、
本作に息づく金子正次の魂
彼はこの映画の中で生き続けているようにも感じてしまう
うらむもいいさ いかるもいいさ
せめて 唄うよ
My Baby Lulla-by♪
(萩原健一 ララバイ)
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