「こんなにたくさん食べられるかなぁ?」

あたしはお母さんにそう言いながら、三個目のおにぎりを皿の上に置いた。

「大丈夫でしょ。おなかすくわよ、きっと。」

お母さんは笑ってまた一つおにぎりを作っている。



お母さんの普通に笑った顔を見たのは、何ヶ月ぶりだろう。



さっきまで、昨日の夜下ごしらえをしてあったハンバーグを焼きながら、お母さんは歌っていた。

あたしがまだ小さかったころ、よく歌ってくれた曲だ。

たぶん、何て言っているかわからないから、日本語の曲じゃないと思う。

だけどあたしはお母さんが歌うその歌が大好きだ。



「ねぇねぇ、本番はあさってだからね!!」

「わかってるわよ。もっと頑張って作らなきゃね。」

「うん!!」


お弁当箱いっぱいにおかずとおにぎりを詰めて、あたしは笑った。





今年の運動会から、色分けのしかたが変わった。

クラスの人数四十人を十人ずつに分けて、赤・白・青・黄色の四色にバラバラになる。


あたしは赤軍。

いつもの赤白帽が使える。


青軍と黄軍になった人は、先生から配られたはちまきをつけることになった。


最初に四つに分けることが決まったとき、先生たちの中で

「平等に全員はちまきにしたらどうか」

という意見が出たらしいけれど、『経費の削減』とかで、それは『検討する』ことになったと、運動会のお知らせのプリントに書いてあった。




あたしは赤白帽を深くかぶって、お母さんに「いってきます」と言って学校へ行った。


いつものランドセルじゃなく、一生懸命作ったお弁当と水筒を持って。





いつもは嫌いな学校だけど、今日は楽しみでしかたなかった。

あさっての運動会に向けて、今日は一日全体練習の日。


お母さんには「友達と食べる」って嘘ついちゃったけれど、頑張って作ったお弁当をさえこ先生と食べると思うと、足が勝手にスキップしちゃう。

いつもは遠くにあるような気がする学校も、すごく近くにあったらいいなと思える。



明日は準備の日。

委員会でまとまってやるのは少し嫌だったけれど、クラスで授業があるのよりはずっといい。

【Le Petit Chaperon rouge】

・・・ペロー童話集・グリム童話に収録されている



≪あらすじ≫・・・グリム童話

  1. 赤ずきんと呼ばれる女の子がいた。彼女はお使いを頼まれて森の向こうのおばあさんの家へと向かうが、その途中で一匹の狼に遭い道草をする。
  2. 狼は先回りをしておばあさんの家へ行き、家にいたおばあさんを食べてしまう。そしておばあさんの姿に成り代わり、赤ずきんが来るのを待つ。
  3. 赤ずきんがおばあさんの家に到着。おばあさんに化けていた狼に赤ずきんは食べられてしまう。
  4. 満腹になった狼が寝入っていたところを通りがかった猟師が気付き、狼の腹の中から二人を助け出す。
  5. 赤ずきんは言いつけを守らなかった自分を悔い、反省していい子になる。


≪話の変遷≫


Ⅰ;1697 ペロー童話集(フランス)

『赤ずきん』

※それ以前の話として、スウェーデンの民話『黒い森の魔女』などに、類話が確認されている。


ペローが民話から童話集にする段階で変更を加えた点がいくつかある。

  • 赤い帽子をかぶせた。
  • 残酷なシーンを削除、あるいは婉曲・緩和化した。
  • 狼が近道を使って先回りしたとあるが、元の民話では赤ずきんに「針の道」と「ピン(留め針)の道」などの二つの道を選ばせるシーンがある。
  • 元の話にはない「教訓」を加えた。


  • この童話集は、当時の宮廷を中心とするサロン(貴族や文化人などを主とした社交界)の女性たちのために書かれたものであったため、下品なシーンや残酷なシーンなどを削除し変更が加えられたと言われている。


    なお、ペロー童話では赤ずきんが食べられたところで終わり、猟師は登場しない。




    Ⅱ; ルートヴィヒ・ティークの赤ずきん(ドイツ)

    戯曲『小さな赤ずきんの生と死』


    ティークはペロー童話では登場しなかった猟師を話の中に登場させ、赤ずきんを食べた狼を撃ち殺させた。

    だが、この話でも赤ずきんは食べられたきり、救出されない。




    Ⅲ;グリム童話

    『赤ずきん』


    長い間、ドイツのとある農家の文盲の老婆(ドロテア・フィーマン)が語る話を聞き取り、手を加えずに原稿に起こし出版したものであると信じられていた。

    しかし、実は話の提供者にそんな人物は一人もいないということがハインツ・レレケの研究により判明している。


    赤ずきんの話の提供者は、生粋のドイツ人ではなく、カトリック勢力の強いフランスからドイツへ難を逃れてやってきたユグノー派(新教徒)の人々の第二・第三世代に当たることに気付き,これを実証した。

    彼女らはヘッセン選帝侯国に属する高級官僚の娘たちであり、文盲ではない彼女たちがペローの童話を読んでいる可能性は充分にある。

    そのことから、赤ずきんはドイツ土着の物語ではないとすら危ぶむ声もある。

    さらにグリムは、版を重ねるごとに話の内容に手を加えていった。

    赤ずきんとおばあさんが狼のお腹から生きたまま救出されるというモチーフを加えたのは彼らである。




    Ⅳ;近代並びに現代における赤ずきん


    パロディー作品の著者および作品

  • シャルル・ギュオー
  • デ・ラ・メア
  • ヨアヒム・リンゲルナッツ
  •  『クッテル・ダッデルドゥが子どもたちに赤ずきんのお話を聞かせる』

  • ジェームズ・サーバー
  •   『少女と狼』


    『ヴァンパイアセイバー』という日本産の対戦型格闘ゲームにも、この過激な性格の赤ずきんをモチーフにした「バレッタ」というキャラクターが登場する。

    このゲームでは彼女が対戦相手である化け物たちに対し、しおらしげな態度を見せつつ隙を突いて仕返しをしたり、手榴弾や機関銃を撃ち放ったりする姿が面白おかしく表現されている。

    また海外でも、赤ずきんをハードコアに表現したロックアートなどがある。




    参考;フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

       ハインツ・レレケ教授の業績紹介

       ハインツ・レレケ『グリム童話のメルヒェン』(岩波書店)

       野村泫『グリム童話』(筑摩書店) ほか