ネットニュースにはならないが、書店や図書館をめぐると、人々の関心のトレンドが分かる。少し前までは生き辛さや自己肯定感に関する書物があふれていたが、今は「認知バイアス」である。図書館でもほとんどが貸出中で、予約すらままならない。
 
    そんな中、運よく    認知バイアス事典 フォレスト出版 情報文化研究所 2021年    を借りたので、若干内容をまとめてみる。(長いのでお暇な時にお読みください。)
 
【自死遺族にあってもよいと思う認知バイアス】
認知的不協和 日常がしんどいほど、魂の向上途中だと思い込みたくなる。
 
気分一致効果 辛いときは辛いことばかり思い出してしまう 負のループを断ち切るのは笑顔と元気 転生を信じる人の方が、生きがい感が高い(大石和男ら、2007
 
フォルス・メモリ E.Fロフタスらによる実験(1995)によれば、具体的に詳細に思い出したことの4つに1つは、実際には経験したことのない出来事であり、4人に1人が実際に経験したことのないことを「思い出す」ことがある。記憶は常に書き換えられてゆく。
 
選択的注意 カクテルパーティ効果 亡き子のサイン、シンボルは求めれば見つかる
 
迷信行動 スマホの画面にひびが入ったら不吉なことが起きると考えてしまう
 
単純接触効果 好きでも嫌いでもない人に対しては、会う回数が多いほど好感度がアップする。
 
内集団バイアス うちの子が一番かわいい
 
現状維持バイアス 挑戦して失敗するくらいなら、挑戦しない方がいい
 
身元の分かる犠牲者効果 集団の統計を示されても共感できず、わたしの子どもを救うには・・・と具体化した方が、相手の行動を促す力が大きい。
 
【気を付けるべき認知バイアス
二分法の誤謬「一年以内に納骨しないと、浮かばれませんよ」→選択の結果は2つではなくて4つある。
 
滑りやすい坂論法 「この世は魂の修行の場、自死者は修行を放棄したから人間には転生できない」エビデンスに欠ける曖昧な因果関係を、さも自明の理のように押し通す
 
早まった一般化 「自死遺族はみんな悲しみにくれた日々を送っている」そうとも限らない
 
ギャンブラーの誤謬 ルーレットではいつも、次に黒が出る確率は2分の1であるのに、黒が連続4回出たら、そろそろ次は赤が出ると思ってしまう。「過去の確率は現在や未来に影響しない」希望的観測 前向きと後ろ向き、認知というより思考のクセ 
 
連言錯誤 自死遺族と、自死遺族で苦しんでいる人とではどちらが多いか。条件の少ない方である。
 
後件肯定 うつで自死に至る人が多い。自死した人はうつに違いない。誘導推論
 
確証バイアス 自分の意見の正しさを確認するために、同じ意見の情報ばかりを集める。
 
疑似相関 かき氷が売れると水難事故が増える。気温の上昇という潜伏変数に気付かず、2者に直接因果関係があるように信じてしまう。
 
バーナム効果 占いで誰にでもある程度当てはまることを言われると、示された内容に合致する部分を後付けで探してしまい、当たっている気になってしまう。
 
誤帰属 人の失敗はその人の力不足、自分の失敗は外的要因。認知の負荷を軽減するために、分かりやすい要因を原因にしてしまいがち。自死遺族は自死の原因を運や環境のせいにしがち、非遺族は本人の努力不足や能力不足と解釈しがち。また、若い人ほど、因果応報自業自得と捉えがち。
 
防衛的帰属仮説 事故の加害者家族は加害者を擁護しがち、被害者家族は加害者を非難しがち。遺族に対する法的整備が進まないのは、為政者側がマジョリティなので、「自分が同じ立場になりたくない」「しょせんは他人事」という心理が潜在している。さまざまな属性の人が集まって議論すべき。
 
プロスペクト理論 何かを得る喜びよりも、失う悲しみの方が大きい。失う分の1.5倍~2.5倍の得るものがあって初めて、釣り合うと感じる。
 
システム正当化バイアス 日本の現状に対し、「このままでは没落する」などと不安をあおればシステム正当化バイアスが働き、現状を高評価してしまう。「現状で何の心配もありません」と伝えると、現状に対する評価が下がる。
 
知識の呪縛 自分が知っていることは他人も知っていると思い込みがち。2人に1人は伝わるだろうと発信したことでも、実際に伝わるのは50人に1人の割合。
 
【その他の認知バイアス】
ソリテス・パラドクス 砂山から一粒抜いても砂山
 
多義の誤謬 お金は財産、俺はお前の友人でお前にとっての財産、だからお前は金が不要
 
循環論法 おにぎりはおむすびであり、おむすびはおにぎりである 世間話にはこのパターンも多い
 
チェリー・ピッキング 広告の口コミ欄に都合の良いコメントだけを公開する対人論法 
 
人格攻撃 嫌いなお前の言うことはすべて信用できない
 
ご飯論法 論点のすり替え
 
ミュラー・リヤー錯視 遠近法的な奥行手掛かり
 
ウサギとアヒル図形    言われてみればそう見える
 
ピグマリオン効果 教育期待効果ハロー効果 親の七光り
 
ゲインロス効果 ギャップ萌え
 
ステレオタイプ AB型の人は二面性がある。少数派は目立ち、目立つもの同士は関連付けられやすい。イスラム教徒は過激である等。
 
モラル背任効果 社会的に立派な仕事をしているほど、不正行為に対するハードルが下がる。女性は庇護されるべきだと考えている女性は、男性と対等に扱われても不満を感じることが多い。
 
心理的リアクタンス 非常ボタンを見ると押したくなる
 
チアリーダー効果 集団でいると特徴が平均水準として認知され、ひとりひとりが魅力的に補正される
 
同調バイアス 人気店の行列が絶えない
 
バンドワゴン効果 売れ行きナンバーワン
 
ダニング・クルーガー効果 メタ認知ができない井の中の蛙 成績の悪いものほど自分は好成績だと思い込み、好成績の者は①簡単な課題であれば正確に自己評価できるが、②難しい課題であれば自己を過小評価する  
 
  みなさん、心当たりの項目は有っただろうか。わたしなど当てはまりまくりである。バイアスが無い方が良いというわけでもないのが重要なポイントで、認知バイアスがあることによって、余計な心労を軽減しているという効果は見逃せない。
 
    なお、最近タイパでYouTubeを倍速鑑賞というのが普及しているが、これもタイパに加えて、情報をすべて受け取らないことによって(希釈することで)、鑑賞によるストレスを軽減しているという効果がある。「感動」も含めて、喜怒哀楽の情をかき立てることは、心的エネルギーを消耗するのである。
 
 
おまけ
    今朝の毎日新聞に、北里研究所の山田悟糖尿病センター長のコメント記事があった。
   人工甘味料を用いた方が、肥満や糖尿病の人でも甘いものを楽しめるという内容。それはその通りで間違いないのだが、アスパルテームの発がん危険性について、「WHO基準では自動車の排気ガスレベルである」として、大したことはないというニュアンスで記されていた。 
 
   氏は自身が人工甘味料使用のケーキの方が血糖値が上がりにくいという(素人でも容易に推測できる)研究を発表しているので、自分の研究成果を(半ば無意識に自慢したくて)、人工甘味料推進派になってしまったのだと思う。
 
   これも認知バイアスのひとつと言えるので、頭が良かろうが社会的地位が高かろうが、みんなバイアスに絡まっているのである。わたしは好き好んで排気ガスを吸いたくはない。
 
  「もうダメだ」と思った時、人の慰めさえ辛い時、自分を天井から見下ろしながら、「この辛い感情(辛さの直接原因となった事実ではなく)は、どこから来ているのだろう」と考えてみるヒントにでもなれば、嬉しく思います。(もう1冊借りているので、気が向けば追記するかも)
 
    なお、認知バイアスの一覧などは、ネットでいくらでも見られます。ただ、そのサイトの主や、記された内容が信用できるかとか、どういう目的でアップしているかには気を付けた方が良いでしょう。(半分くらいは何かの広告)    実は、本によって網羅している項目が異なったり、同じ内容の項目でも名称が異なることが多いので、今回を前編にして、後編として改めて書くかも。