ゆり絵は、目を閉じたままで、階段をあがろうとした。
足を踏《ふ》み外《はず》したのか、彼女の身体がガクッと下に落ちた。
「きゃあっ!!」
「危ないっ!」
僚は、ゆり絵を抱き締《し》める腕《うで》に力をこめた。
足に力を入れるが、重力は容赦《ようしゃ》なく彼の背中を押《お》す。
ふたりはもつれ合いながら階段を落ちていく。
視界が回り、階段と踊《おど》り場が妙《みょう》に遠くに見えた。
「ゆり絵っ、ゆり絵ぇえっ」
「僚っ、きゃあぁあっ、僚ーっ」
ゆり絵が、僚に抱きついてくる。
僚はとっさに体を入れ替《か》えた。
持病のある彼女に衝撃《しょうげき》を与《あた》えるよりも、自分がケガをするほうがずっとマシだ。
「きゃーっ、きゃぁああぁっ」
「うっ、くっ、い、痛ぇっ……うぅっ」
身体が硬《かた》いものにぶつかるときの、重い音がする。
肩《かた》が痛い、背中が痛い、腰《こし》が痛い。
墨《すみ》を流したように、脳裏が暗くなった。
僚、起きてっ、僚っ」
聞き慣れた声が僚を起こす。
うっすらと目をあけると、そびえ立つ階段が見えた。あまりの急角度に圧倒《あっとう》されてしまう。屋上のドアがひどく遠く見えるのは、横たわっているせいだ。踏み外したのは十数段というところだろう。
短時間だが失神していたらしかった。思っていたよりも苦痛はなく、手足も無事に動く。
まばたきするほどの時間だったはずだが、ひどく長く感じた。
「よ、よかった……生きてる……ゆり絵、無事か?」
——えっ? この声?
自分の喉《のど》から出た、高いトーンの甘い声にあわててしまう。
僚はがばっと身体を起こした。自分がセーラー服を着ていることに気がついた。胸が形良くもりあがり、女の身体になっている。
——ま、また? またかよ? なんで急に?
「私は無事でしょ? 僚が守ってくれたもの。僚はあちこちぶつけてしまったけど」
詰め襟を着た自分が、踊り場の壁《かべ》にもたれ、腕組《うでぐ》みをして僚を見ていた。
自分が自分の声で、自分に向かって話し掛《か》ける様子は、頭が痛くなるような光景だ。
「ま、また、変わった?」
「みたいね」
「鏡、あるか?」
「カバンの中。今はないわ」
僚は、確認のつもりで、胸やお腹のあたりをパタパタする。
セーラー服の胸を押しあげるふんわりふわふわの手触《てざわ》りと、自分の身体から立ちのぼる甘《あま》い体臭《たいしゅう》にクラクラした。
僚が入っているのはゆり絵の身体で、僚の身体に入っているのはゆり絵の魂《たましい》。
これは魂の入れ替わり。
前にも一度体験した。
元に戻《もど》って一週間ほどしか経ってないのに、またいきなり変わってしまった。
「なんでいきなり? デビルベアがやったの