横山×永尾
「なんやねんこれ、ほんまわからん!」
鬼のような形相でダンスの振り入れをしていた横山が
けたたましい叫び声を上げる。
普段のほんわかした彼女しか知らない後輩メンバーは
そのあまりの変貌ぶりに萎縮し、
この光景を何度か目にしていたメンバーたちは
特に気にする様子もなく自分のことに集中していた。
彼女と同期であるわたしはもちろん後者の人間。
昔と全然変わってないなー
なんて思いながら、しばらくその姿を見つめたあと
次の仕事であるラジオの収録へ向かうために
熱気ムンムンのダンススタジオから一足先に抜けた。
数時間のラジオ仕事を終えて帰宅の準備をしているとき
ダンススタジオにバッグをひとつ忘れたことに気づいたわたしは
家とは正反対であるその場所へ渋々戻ることにした。
「…まだやってたの?」
部屋に入ると数時間前と同じようにダンスの振り入れを
している横山を目撃し、やれやれとため息が出る。
とりあえず忘れ物のバッグを回収して、鏡越しに彼女の様子を見ると
死にそうな顔をしながら全くキレのないダンスを踊っている。
マジで倒れる5秒前って感じ。
「横山もうやめなよ、倒れちゃうよ?」
「…。」
さすがに心配になってきたので少し近づいて声をかけてみるが
返事は返ってこない。おそらく気づいていないのだと思う。
…集中しすぎるといっつもこうなんだから。
なんて呆れつつも、そんなことしょっちゅうだった
研究生時代を思いだし、懐かしくなる。
するとあの頃よく使っていた対処法をふと思いついた。
あれなら、こっちに気を取られないわけがないしとても簡単だ。
横山の心臓には良くなさそうだけど、元々は気づかない彼女が悪いわけだし。
ーよし、やってみよう。
ということで、わたしは踊り続ける横山の背後に立ち
「横山ー、いいかげんにしろー!」
と叫びながら思い切り彼女を抱きしめてみた。
「うわぁっ!な、なんやなんや!」
思惑通り、横山は驚きの声を上げてダンスの動きを止め
さらには腰を抜かしたように座り込んだ。
「へっ!?だ、だれや?何事?」
「わたしだよ、横山。」
「…ま、まりやぎさん、なん?」
「うん。」
横山は自分の背中に張り付いているわたしを見て確認すると
安心して力が抜けたのか、自然とこちらに倒れてきたので
わたしはそれをしっかりと受け止め、支える。
「…全く、いつまで続ける気だったの。」
「…うぅ。」
「あんなヘロヘロで踊ってても意味ないでしょ。」
「…そのとおりやと思います。」
「倒れてからじゃ遅いんだよ?」
「…はい。以後気をつけます。」
軽くお説教をすると、横山はしゅんとしながら
わたしの顔色をうかがっている。
その様子が面白くて、思わず顔がにやけてしまった。
ーあぁ、なんだかまるで…
「昔みたい、やなぁ。」
「…ふふ。わたしも今ちょうどそう思ってた。」
「お、以心伝心やな。」
「そうみたいだね。」
「…なぁ、まりや。」
「んー?」
「しばらくこのまま寄っかかっててええ?」
「…はいはい。ちょっとだけだよー。」
「えへへ…やっぱ落ち着くわぁ。」
嬉しそうにわたしに体を預ける横山をこれまた懐かしいなーと思いながら
あの頃のように、優しく抱きしめた。