横山×北原
『今、どこにいますか?』
仕事帰りバスに揺られていると、横山からメールが来る。
今日はこのまま彼女の家に泊まりに行く予定だ。
『バスに乗ってるよー
もうすぐ着くと思う』
『それでしたら、バス停で待ってますね。』
30秒もかからないうちに、またメールが送られてきた。
わざわざ来てくれなくても大丈夫なのになー、とは思うけど
「北原さんのことが心配だから。」
…みたいな理由をつけて、意地でも来ることは分かりきっているので
素直に従うことにしよう。
ー今からちょうど一ヶ月前のあの日。
横山からの熱い告白を受けたわたしは、彼女と付き合い始めた。
とは言っても、彼女が私に好意を向けていてくれたことは
ずっと前からわかっていたし
付き合い始める以前からまるでカップルのように過ごしてきた
わたしたちの生活には、これといって変化はなかった。
ただ、一つだけ気になることがある。
横山がわたしに対して異常に過保護になったのだ。
もう専属の執事と言っても過言ではない。
そりゃ、付き合ったとたんに冷たくされる
なんてことよりはいいに決まってるんだけどさ。
バス停に着くと、先ほどの宣言通り横山が待っていた。
「北原さんおかえりなさい!」
「ただいまー。わざわざ来てくれなくても良かったのに、ありがとうね。」
「いえいえ、とんでもないです。
北原さんをひとりで帰らせるなんて心配で出来ませんよ。
はい、手繋ぎましょう!危ないですからね!」
危ないから手をつなぎましょう…って
わたしは小さな子供か!
でも真剣な顔をした彼女の行動を無下にすることもできないので
仕方なく、差し出された手を取った。
それに満足した横山は自分を車道側にして
真剣な顔のまま歩き始めた。
家に着くと、当初の予定通り二人で料理を作ることに。
メニューは無難なところでカレーとサラダだ。
「あ、北原さん!包丁使うときは猫の手ですよ!」
「玉ねぎは目にしみちゃうからわたしがきります!」
「火つけるときは気をつけて!」
「…。」
…うん。さすがの北原もイライラしてきたぞ。
子供扱いしすぎやろ!過保護も程々にせい!!
文句を言おうと、自分の手を止め横山の方を睨む。
…すると彼女はわたしに背を向けてうずくまっていた。
「…えっ、横山どうしたの!?」
「な、なんでもないですよ。」
なんでもないってことはないでしょ!
急いで駆け寄り、嫌がる横山を強引に覗き込むと
彼女の手からダラダラと血が流れていた。
どうやら包丁で切ってしまったらしい。
「ひっ。な、何やってんの!水で洗って消毒しなきゃ!」
「…大丈夫ですよ、これくらい」
「いいから、は・や・く!!」
横山に手を洗うように促すと
わたしは救急箱を見つけてきて中から消毒液と包帯を取り出す。
「…ほら、洗い終わったらさっさとこっち来る!」
「…うー。」
もたもたしている横山の姿に、忘れていた苛立ちが戻ってきた。
これは文句&説教をしなくては。
「…全く。人にはしつこく口出ししてくるくせに
自分がこれってどーゆーことなの。」
「…ごめんなさい。」
「どうせ、わたしの方ばっかり気にしてて
自分の手元はしっかり見てなかったってところでしょ。
横山、最近ちょっと変だよ?
わたしのことまるで子供みたいな扱いしてて。」
「…。」
横山はしばらく俯いて黙ったあとに口を開いた。
「わたし…どうしても怖かったんです。」
「…。」
「北原さんが彼女になってくれて嬉しく思う反面
わたしが守らなあかんって気持ちが強くなってしまったんです。
北原さんに何かあるんやないかと思うと不安でいっぱいになって。
行き過ぎたことをしてるって自覚はあったんですけど
どーすることもできんかった…。」
…ま、そんなとこだろうとは思ってたよ。
申し訳なさそうにこちらを伺う横山の頭を
安心させるように撫でてやる。
「横山の気持ちはよくわかったし、嬉しいよ。
でもわたしは自分の身を傷つけてまで横山に守って欲しいとは思わないし
わたしだって横山がこうやって怪我するのは辛いんだから。」
「…はい。」
「それにさ、私の方が年上なんだしさ。
こっちだって守られてばっかりってわけにはいかないよ。
…だから、約束!」
「やく…そく?」
「横山はもう少し力を抜いて、わたしに甘える努力をすること!
わたしは横山に心配させないように気をつけて生活するから。
…わかった?」
「…わかりました。」
全く納得してないって顔してるぞ、おい。
ホント頑固なんだからこの子は。
…これは止めをさしておく必要がありそうですな。
「あ、言い忘れたけどもし約束破ったのがわかったら
そっこう別れるからね?」
「へっ!?分かれる!?そんなんイヤや!!
…約束、守りますから絶対に!」
全力で宣言する横山を見てとりあえず一安心。
もちろん別れる気なんてさらさらないけど
これくらい言っとかなきゃ絶対変わらないもんね。
「…とゆーことで、残りは全部わたしが作るから。
いい子で待ってなさいねー。」
「…はーい。」
まだ少々渋ってる横山をあとにして
わたしは料理のしたくに戻った。