リザスト公式認定コンサルタントの衣川信之です。

 「リザストの教科書」の基本連載です。経営とマーケティング視点で、リザストの使い方とリザスト起業成功法をわかりやすく説明していきます。Q&Aは、起業家の皆さんからいただいた質問に回答していくシリーズです。

 


Q&A 起業で安定収入を目指してもいいのでしょうか?(事業のゴールとファイナンス)

 

 「起業で安定収入を目指してもいいのでしょうか?」という質問に対して、考え方の道筋を示していきます。いわゆる起業が初めてで、経営の領域で会計やファイナンスの考え方を学んだことがない場合、起業とは、商品を作って販売して売上を得ることだと単純に考え、できれば安定収入が欲しいという安心感を求める気持ちが先に立つことも多いでしょう。

 

 

 もちろん、起業して安定収入を目指してもいいと思います。むしろ、目指してほしいです。ただし、個人のファイナンス(財政収支)の理由からではなく、事業を行う事業主の責任として安定経営を目指すことを意味するのだと考えられます。

 

 

 これらのことを体系的に理解するためには、少なくとも、以下の諸点が問題になってきます。

 

①経営活動と収入・利益の関係

②事業の売上・利益と個人の収入の関係

③ゴール設定における各領域と抽象度の違い

④思考する際の言語制約の問題

 

 

 順番に紐解いていきましょう。

 

①経営活動と収入・利益の関係

 そもそも、経営が安定するためには、事業の基本戦略が優れていることを前提に、経営の両輪であるイノベーションとマーケティングが効果的に行われている必要があります。事業の基本戦略、イノベーション、マーケティングが上手に組み合わさってうまくいっているから、事業が長期的に成長しながら、短期にも売上が上がり、利益が増えていき、その利益を再投資して経営資源やブランド基盤がさらに強まり、イノベーションやマーケティングの活動量を増やすことができます。戦略が適切で、イノベーションが行われ、マーケティングの活動量が増えれば、売上や利益は増えていくものです。

 

 

 このような考察から分かるように、経営活動を行って売上や利益を増やしていくことはそれなりに難しいことであり、また不確定要素が大きい中でリスクを取るから戦略がうまくいく面もあります。経営には、手堅く安定経営を目指すべき面と、果敢にチャレンジして経営資源を投入する面の両方があります。ある事業が一定の間、安定的に売上をもたらしてくれることもあるでしょうが、うまくいけば模倣されて競争が激化してくる面もあり、売上を安定させるには相応の努力や支出をして独自価値を市場において築き上げる必要があります。

 

 

 だから、経営者は経営の理論と実践を学び、社員に経営の理論書や経営戦略を学んでもらい、自社の独自の価値提案が顧客に選ばれるような事業活動を行っていきます。イノベーションを起こしながら、経営を安定させていくことは、簡単ではありませんが、経営者の役割になっていきます。そのような経営能力の対価として、経営者は経営者としての報酬を事業から受け取ることも可能です。

 

 経営と会計の基本的な考え方についは、林總「ドラッカーと会計の話をしよう」が起業初心者にもわかりやすいと思います。

 

 

 戦略がその事業に取って正しいことを前提に、①良い商品やサービスを提供し、②適正価格で販売し(商品と代価の等価交換を行い)、③経営努力によって利潤が残るのであれば、事業の売上や利益が増えていき、経営者が受け取る報酬も安定してくることは可能です。

 

 

 ①の領域では、多くの経営者が学んでいるように、有名なポーター、ドラッカー、コトラーらの有用なフレームや経営観に学ぶだけでなく、さらに学問的なディシプリン(原理原則)にさかのぼって考える抽象思考も必要ですし、自社の戦略やマーケティングに有効な戦略を具体的に立案して実行していくことも必要です。そうしていくことで、社会に価値を提供しながら、顧客に支持され、人の居場所を作り、事業を継続するための売上や利益が増えていくようになります。経営者マインドが持てるようになることを、ゴールの一つにすることはとても効果的です。

 

 

 

②事業の売上・利益と個人の収入の関係

 起業して経営者マインドを身につけ経営者としての成功を目指すなら、事業の売上を管理する通帳と、事業の売上の一部から受け取る報酬を管理する通帳は、分けて管理した方がいいでしょう。通帳(財布)が同一であると、気がつかないうちに事業の成長とは関係のないことに対する支出が増えていき、売上が増えても事業に利益が残らず、経営者としての報酬が払えず、自分の生活費を稼ぐためにまた売上を作り、そして利益が残らないという悪循環になりやすいです。

 

 

 この点を正視して「個人の」財政収支(ファイナンス)の状態を改善するための良い参考書が、マイク・ミカロウィッツ「PROFIT FIRST お金を増やす技術」です。

 

 財布を分けるという、シンプルですが、非常に効果的な習慣です。収支を記録し、財布を分けていかないと、不必要な支出が増え、利益が残らず、効果的な支出ができなくなってくるからです。自分の時間と身体を酷使する自転車操業状態となるか、事業戦略を考慮せずにお金が欲しいという個人の財政収支の理由から高額商品に頼り過ぎて顧客がいなくなってしまうことにもなりかねません。

 

 

 せっかく顧客のニーズに応えて商品を作って販売する基本的な力があっても、事業の売上と個人の財布を区別するという基本的な財政の管理能力が不足していると、事業を継続するための利益が残りにくい事業体質になってしまいます。成功するために、早めに、事業と個人の財布を分けるというシンプルな習慣を取り入れましょう。

 

 

 価格理論に学び商品の価格も適正対価にする。経営者である自分に対する報酬も適正にする。財布を分ける。その上で、税金を払った後に会計年度を超えて事業に利益が残るように管理し(会社のお金を増やす)、報酬の中で生活経費を管理して(個人のお金も増やす)、会社と個人の双方のファイナンスの状態を高めていきます。

 

 会社にお金を残すための考え方については、椢原浩一「会社にお金を残す経営の話」をお薦めします。

 

 

 売上やファイナンスの規模をどこまで大きくしていくかは、事業のゴール、個人のゴールによって変わってくるでしょう。収入が経済社会の中で発生する以上、大きな売上や収入・資産には、それ相応の責任とコントロール力が必要になってくるからです。

 

 

 

③ゴール設定における各領域と抽象度の違い

 個人事業主の場合、年間の売上が1,000万円を超えてくると、事業と個人の双方での財政(ファイナンス)のコントロール力が重要になってきます。事業のゴールは、多くの人の幸せ(ハピネスのゴール)、顧客の成功(カスタマーサクセスのゴール)を定めた上で、プロフィットやファイナンスのゴールや目標も適切に管理していきます。

 

 

 個人の場合も、より大きく包括的なゴールの諸領域のゴール(サブゴール)を複数設定し、仕事のゴール(社会に対する機能の提供)、ファイナンスのゴール(個人の財政収支の安定、成長)、趣味のゴール(自分が好きでやりたいこと)、社会貢献のゴールなどを、それぞれ別個に設定していくといいでしょう。詳しくは、コーチング理論のゴール設定の方法について学ぶといいでしょう。

 

 

④思考する際の言語制約の問題

 三次元以上の立体の状態を、一次元の文字列で多くの場合は肯定文と否定文の二元的なフォーマットを持つ言語(文章)で表現することには、根本的な困難が伴います。

 

 「起業で安定収入を目指してもいいのでしょうか?」ということについても、そのことに対して指針を得るには、上記で論じてきたように、複数の領域にまたがり、かつ、それぞれの抽象度が異なる、立体的で動的な体系である事柄の全体像を理解することが必要です。

 

 

 京都の東寺の立体曼荼羅が見事であるように、曼荼羅で表現されている世界が立体であるなら、立体で把握した方がイメージしやすいでしょう。文字列で説明されるとその文章を構成する各要素と全体のつながりを把握するのが思いのほか難しく、また、肯定文や否定文の形にならざるを得ないことで全体像とは異なる印象になりやすいし、本来は先後関係(条件的な因果関係)がないのに文章で表現すると先に並べた言葉があたかも先行条件(原因)であるかのような心理的な印象につながりやすいです。

 

 

 「起業で安定収入を目指してもいいのでしょうか?」については、本稿で論じた経営や財政の基礎知識を十分に理解して実践できるようになることを目指すなら、大いに目指していいと思います。逆に、本稿で論じた経営や財政の基礎知識の必要性が見えていない場合には、安定収入を目指して起業しても安定収入が得られにくいと思います。

 

 

 起業と経営のゴールは、まずお客様の幸せであり、成功です。事業や個人のファイナンスは、事業や個人の責任でしっかり果たすべき責任であり、事業のゴールや目標ではないはずです。株式会社(特に上場企業)の場合は、沿革上、そして法制度の建前上、金銭価値で測られる株主利益の最大化が目標になっています。

 

 

 しかし、個人事業や上場しない小さな会社の場合は、実質的には個人や小さな組織のアイデアや経営資源という実体が会社の価値を構成していて、その価値を効果的に用いながら、社会に必要なものを提供し、事業を継続していく責任があることになります。売上や利益は、経営の健全性や事業の成長を測る指標の一つにはなりますが、売上や利益が小さくても、社会に必要な機能をたくさん提供している素晴らしい事業はたくさん存在します。

 

 

 個人の場合でも、社会に対する機能の提供(誰をどのように幸せにするのか)である仕事のゴールと、個人がしっかり規律を持って管理していくことで増えていく財政収支(ファイナンス)のゴールをしっかり分けてゴール設定していきましょう。

 

 

 経営や財政の基礎知識を十分に理解して実践できるようになることを目指して、大いに安定収入を目指していいと思います。

 

 

 さまざまな領域と抽象度にまたがって存在する、ゴールの階層構造についての理解が大切です。

 

 
 素晴らしい人生と事業の経営者になる大きなゴールを描きながら、
 
 林總「ドラッカーと会計の話をしよう」(事業の戦略、利益)
 マイク・ミカロウィッツ「PROFIT FIRST お金を増やす技術」(起業家個人のファイナンス)
 椢原浩一「会社にお金を残す経営の話」(会社の経営、利益、ファイナンス)
 
などの良書を繰り返し読み込み、習慣や行動につなげ、周囲を幸せにする豊かさを広げていきましょう。
 

 

 

 

 

 


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