秋が過ぎ冬も近づく頃、

京浜急行線、平和島辺りから久里浜まで

早朝に適当な駅でぶらり下車すれば

海側へ続く道には寒そうな派遣労働者の

群れをかなりの確率で目にするだろう。

 

京浜工業地帯と言う呼称を知ってから

久しい。東京湾沿い、横浜、横須賀へと

物流業、製造業、工業プラントが

延々と続く。

 

どこでもいい、生麦あたりで良いか。

冬場、海から吹いてくる風が頬を刺す。

精気を奪われたような労働者の群れの中に

確かに私も存在していた。

 

途中、いつもの立ち食いそば処で

きつねそば卵入りでもかき込んで

身体を温めるも、鶴見川の支流の橋を

渡る頃にはすっかり身体は冷め切っている。

 

川面を眺めいつも思うのはこんな時期

万が一川に落ちたら即死だろうな。

こんな時は水鳥にでもなれたらいいなと

思う。

 

ぼうっとしていれば、ベテランのフォークリフト

運転士の高幡さんが声をかけてくる。

「よう?!」はっと我に返り仕事場への道を急ぐ。

 

梱包材を職場に運ぶ車が通り過ぎた。

なんでも運転している親父の息子は昨今

タイム・ウエント・バイという曲で売れている

マイ・リトル・ラバー・シングのギタリスト

だそうだ。ギタリストの端くれとしては

嫉妬心以外沸いてくるものは無い。

 

 

大黒町の灰色の空のした職場の倉庫が目にはいる。

それと共に食肉工場から屠殺されようとしている家畜の

鳴き声が耳に届いてくれば、さながら死んだも同然の

私へのレクイエムにも聞こえるのだった。