こんにちは、生殖心理カウンセラーの菅谷典恵です。

 

誰しも「理想」としていた人生があって、そうなるものだと思って生きてきた面があると思います。意識して考えていたというよりなんとなくといった無意識的なものかもしれませんが、自分を主人公とした物語は、誰の中にも存在します。

 

結婚したら?避妊を止めたら?妊娠できる、お母さんになれるものだとなんの疑いもなく信じていたのに、なかなか妊娠が出来ないという「現実」とどう付き合っていったらよいのかということはとても難しいです。

まさか自分が?とショックですよね。

 

私たちは「理想」と「現実」の乖離に大きなストレスを感じます。

「35歳で子どもふたり生めていると思っていたのにまだ一人も生んでいない」

という具体的なことから、

「思いやりのある人になりたかったのに全然なれていない」

というようなおおまかなことまでいろいろあります。

 

人生はこの「理想」と「現実」をできるだけ近づけていく作業なのですよね。そのために私たちは日々、努力しています。人と話したり、仕事で悩んだり、本を読んだり映画を観たり、頭の中でぐるぐる考えたりしてより「理想」に近付こうと日々もがいているのだと思います。

 

(余談ですが、心理学的には「理想」の自分と「現実」の自分を限りなく近づけていった状態のことを「自己一致」といいます。臨床心理士は「自己一致」の状態にあること、あるいは「自己一致」していない内容に対して自覚的であることが求められます。自己一致していない状態は不安定になりやすく、人さまのお話を受け止めにくくなってしまうからです。)

 

妊活は「理想」と「現実」が離れている状況ですよね。ですからストレスが高いということは自ずと明らかなのです。

 

妊娠が叶えば「現実」が「理想」に近づいたということになりますが、高度が生殖医療をもってしても、全員の方の願いはなかなか叶わないのもまた「現実」です。

このことも多くの方が理解していらっしゃるので、治療をしながらも「いつかはあきらめないといけないときが来るのだろうか・・?」と「終結」のことをイメージされていると思います。

 

「終結」、考えたくない言葉ですが、カウンセリングの場面で話題になることもよくあります。「皆さんどのように決断されたのでしょう」とお尋ねいただくことも多いと感じます。こうしたやり取りを通して、参考にできることを見つけていただくのも良いと思います。

 

治療の「終結」は「理想」を「現実」に近づけていく作業ですよね。大変です。しかし、ほかの局面でも起こりうることです。決して後ろ向きではなく、方向転換だと思います。

 

人生においては今までと向きが異なっても、自分が向いている方向が常に前です。どちらが前でどちらが後ろかということは固定されていません。フェーズごとに変化します。

 

私たちは「理想」を柔軟に上書きしていく必要があるのだと思います。子どもの有無で差は生まれるかもしれませんが自分を主人公にした物語はまだまだ続いていきます。