先日、新橋で研究会(プチ学会)があって、表記の件についての演題がありました。

 

もちろん、治療に詳しいプロ患者さんも、勉強や経験が足りない藪医者もいるでしょうが、基本的には医師のほうが圧倒的に多くの知識と経験を積んでいます。その演者の先生は、見えている世界が違うんだ、とおっしゃっていました。

 

布石のつもりで書いたわけでもないのですが、先日の記事( 大人の間違い探し | リプロ東京公式ブログ )で、間違い探しの記事をアップしましたが、予備知識なしでこの間違い探しをやると、半分分かれば上出来、全部を短時間で見つけるのは不可能に近いというか、そんなの分かるわけないだろ!と言いたくなるものもあります。こっちかな、あっちかな、なんて、何度も答えではないところを探したりしてしまいます。しかし、分かった上で、あらためてこの間違い探しの写真を見ると、実に簡単に分かります。

 

あるいは、森の中の道、10回も20回も通ったことがある人はスイスイゴールにたどり着けます。あるいはわき道にそれても、似たような別の森に入っても、経験から何とかなることでしょう。しかし、森に入るのが初めてに近い方は、そうはいかないでしょう。たとえ知識はあっても、つまずいたり、何かに惑わされたり、変な方向に進んでしまったり、ゴールまでの時間はそれなりにかかるはずです。同じ光景を見ているはずでも、見えている世界は違います。

 

 

精液所見がすごく悪くて自然妊娠は難しいと言われ、もう私たちどうしていいか分からない、とショックを受けた夫婦がいたとします。でも医師は、同じような、あるいはもっと悪条件の方でも、その後適切な検査治療によりうまくいった人を、たくさん知っています。自然妊娠は難しくても顕微授精すれば何と妊娠できそうだと考えた医師は、顕微授精の説明をどんどん進めるが、夫婦は医師の説明など耳に入らず、すぐに高額な治療を勧めてきた医師に不信感を抱く、などというシーンは、日本中で毎日のようにあることと思います。目の前の現実を受け止めるだけで精一杯のご夫婦と、こうすればうまくいくという未来を見せて励まそうとする見る医師は、こうしてすれ違います。

 

採卵したが、全然卵子が取れない、あるいは取れてもグレードが悪い、個数が少ない等の場合もショックは大きいです。「もう私たち厳しいですよね?」などと質問されることは多いですが、治療には周期差も大きいし、繰り返すうちにうまくいくご夫婦はいくらでもいることを知っているので、励ますつもりで、もう一度頑張ってみてはどうでしょうかと説明したが説明に納得できず、今回うまくいってないのに次またやってうまくいく気がしないとふさぎこんで、年齢的なこともあり時間もない中で長期に治療を休んでしまう、などという光景もまた見られます。

 

私たちは、できるだけ早く妊娠していただこうと、様々な検査や治療を提案しますが、ご夫婦の感じ方や考え方、経済状況、職業(通院がどのくらい可能なのか)、居住地、治療に対するスタンス(少しでも自然に、あるいは少しでも早く、あるいは経済的なことも重視したい)は意外と幅広いものです。色々な方がおられること自体は分かっていても、そのご夫婦1組1組の考え方までは、なかなか察しきれません。

 

検査や治療は多くしたくない方に、治療経過等を考慮して良かれと思って色々な検査や治療を提案して過剰医療とか金儲け主義などと思われたり、逆にできることは何でもしたい方に、1つ1つ順番に(小出しに)検査や治療を勧めたところ、できることがあるなら最初から全部やりたかったのに、なぜ言ってくれなかったのだと結構強めに言われてしまうことがあったり、こんなすれ違いも時々あります。すれ違いがあると、患者さんだけでなく、医師も意外とへこみます。

 

全ての選択枝について1つ1つ説明して複数のプランを立て、そこから選んでいただくこともできますが、全て理解できる患者さんは決して多くなく、そんなたくさん説明されても分からない、となってしまう上、たとえできたとしても膨大な時間がかかる可能性がありますので、私たちはある程度「こんな風にやった方がいいと思いますよ」というお勧めに沿ってご説明し、それでも選択していただいたほうがよい部分を絞って、ここは選んでほしい、みたいな形で説明することが多いのですが、何か特に希望があればもちろん沿うことはできますので、こんな感じで進めて欲しいというのがあれば、ぜひご相談いただければと思います。

 

ということで、今日は、医者と患者はなぜすれ違うのかについてお話いたしました。

 

・・・そろそろ少子化の続編書きます。今日はこの辺で。