着床とは生殖医療の最後のブラックボックスである、などと言われることもあるが、受精卵の成長は顕微鏡で確認できる、移植前の子宮内膜の状態も生検することができるが、移植してしまうと受精卵も観察できず、子宮内の状態も普通は検査することができないため、研究が難しい分野です。

 

着床には、炎症・炎症性物質(サイトカイン)・成長因子など様々な因子が関与することが知られていますが、賛否はあるものの、「スクラッチ法」などが存在することからも分かるように、着床には炎症が必要であることは間違いないようです。

 

自然妊娠においては、精液暴露による炎症反応が起こり、また受精卵(胚)も、父親由来の抗原を発現して炎症反応を起こして、母体の免疫反応が指導し、制御性T細胞(Treg)により「免疫寛容」が成立して初めて妊娠成立、継続が起こります。

 

また、胚には胚発生や着床に関連するサイトカイン・成長因子に対する受容体が発現しており、例えば培養液にサイトカインや成長因子を添加した場合に胚発生がよくなることが知られています。

 

 

当院では2021年9月現在、胚移植時の標準培養液としてGM-CSFというサイトカインを添加した培養液を使用しております。もう一つ、ヒアルロン酸をより多く含むエンブリオ・グルーをオプションで選択することもできます。ヒアルロン酸は、培養成績・胚の凍結融解の成績を向上させ、受精卵を子宮に糊のような作用でくっつきやすくすると言われる成分です。両方同時には使用できませんが、前者にも後者ほどではないがヒアルロン酸が含まれています。

 

 

PRPとは、Platelet Rich Plasmaの略で多血小板血漿療法のことです。血小板は出血点に集まってただ血を止めるだけでなく、粘着・凝集の際に成長因子を放出して組織の損傷の修復を行う役割があります。

 

そして、従来型の再生医療としてのPRP療法は、採血をして遠心分離し、「血小板成分」だけを抽出して患部に注入する方法です。採血当日に注入することになるのですが、主には整形外科分野での関節治療が有名で、元ヤンキース(現楽天)の田中将大選手や、エンゼルスの大谷翔平選手が、右肘の治療でPRP療法を行ったりしているようです。生殖医療の分野では一部のクリニックで、主に子宮内膜が薄い方向けに先進医療として従来型のPRP療法を行っていたようです。

 

当院ではそのアレンジ版として、PFC-FD(FD-PRP)療法を実施しています。これは、血小板から成長因子だけを抽出、無細胞化することでフリーズドライ加工・長期保存(半年間)を可能にしたものです。従来型のPRPが血小板成分ごと入れるのに対して、PFC-FD(FD-PRP)では成長因子だけを抽出している点が特徴です。主な成長因子として、妊娠や着床に特に関与すると考えられているEGF(上皮細胞増殖因子)のほか、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)、PDGF-a/b(血小板由来増殖因子)、TGF-β(形質転換成長因子)、bFGF(線維芽細胞増殖因子)などを含んでいます。子宮内膜が薄い方がメインの対象ですが、様々な手を尽くしたがなお原因不明の着床障害の方に対しても実施可能です。まだ始めて間もないですが実際に妊娠例も出てきています。

 

 

当院ではこの他、SEET法、G-CSF子宮内注入法、スクラッチ法、2段階移植法、新鮮胚移植、初期胚もしくは胚盤胞の複数個移植、最新の着床の窓の検査(ERPeak検査)、各種オプション検査や治療、子宮内膜が薄い方向けのサプリメントや治療など、幅広い治療を積極的に行っています。

 

なかなか結果が出なくてお悩みの方は、ぜひ当院での治療をご検討ください。

 

 

松林ブログのPRP療法解説記事も、ぜひご覧ください。

移植周期のPRP療法

 

生殖医療解説シリーズ 過去ログまとめはこちら

生殖医療解説シリーズのまとめ