以前の記事で、医療がパターナリズムからEvidence Based Medicine (EBM)へ、そしてテーラーメード医療へと変遷していった歴史について解説いたしました。では、これから先の医療はどうあるべきなのでしょうか。

 

型通りの治療しか提供しないのは、医療側としてはとてもラクです。生殖医療であれば何日目にどの検査項目(採血や超音波)、どの薬を内服し、採卵した後の媒精方法や新鮮胚移植の有無、凍結方針まで、数種類の「お決まり」でよければ、ミスも少ないし、考えなくてよいから迅速で、1患者あたりにかけられる時間も少なくなりますので待ち時間も少なく、シンプルで分かりやすい治療を求める方にとって訴求性があります。物品の在庫管理や新人教育もシンプルです。

 

前回の記事をいきなりひっくり返すようで恐縮ですが、そもそも人間の体に個体差なんて、そうそうありません。1人1人に合ったベストな治療を、と掲げたところで、ベストなんてあるようでなくて、型通りやれば多くの場合はうまくいく、ここが大前提で、型通りうまくいく方までが、ベスト探しをして迷走してしまうのは、あんまりいいことじゃない。医療に限ったことではないけど、まずは型通りやってみることは、とりあえず大切で、それでも一定の割合の方は妊娠します。しかし、型通りの治療しかしなければ、マス(全体)で見ればそこそこ成功しているように見えても、個々で考えた場合に、それではうまくいかない方が確実に出てきます。

 

 

リプロダクションクリニックでは、個々の状態に合わせて自然周期から低刺激、様々な薬剤の種類や使い方のバリエーションを持ち、豊富なオプション検査の実施、過去の治療歴や妊娠歴を踏まえた検査治療計画を立てています。こういったことを充実させればさせるほど、現場に求められる要求水準はどんどん上がります。医師以外のスタッフも、型が増えるだけでなく、自由なバリエーションが増えると知識のみならず、それを使いこなすための考える力、応用力が要求されます。たとえば、医師が間違った指示を出したときに気づけるか、患者さんから質問の電話を受けた受付が、質問内容を正しく医師に伝達できるか等の要求水準は、治療内容のバリエーションが増えれば増えるほど飛躍的に上昇します。

 

治療のバリエーションが増えれば、用意する薬剤も増え、1つ1つの薬の薬効や組み合わせ、増減のタイミング、在庫管理もしなければなりません。薬の種類が増えれば、間違いなく処方を実施できているかについても気を遣います。バリエーションが増えるとともに質問も多様になりますので、スタッフはそれらの質問に答えられるだけの知識や経験を求められます。

 

 

オプション検査も、初診時に一括でやるだけであればシンプルですが、バラバラに行ってバラバラに結果が返ってきたり、再検計画を立てなければならなかったり、それによってその都度治療計画を過不足なく修正していく必要があります。他院ですでに行っている検査は省いたり、あるいは予算の都合等で順番に検査をしていくような場合は複雑さが増します。良かれと思って最初から全部まとめてやろうとするとコストの問題が(陰で高いとか儲け主義とか吹聴されてはうまくない)、でもあまり絞り過ぎると最初から検査したかったと言われてしまうので、そのあたりに注意して進めていきます。過不足なく検査計画が立っているか、常に更新される治療方針に間違いはないか、常にアンテナを張っています。どの結果を説明し、どれを説明していないのかを見極めた上で、例えばまだ説明していない新しく結果が出た検査結果があれば診察時にタイミングよく印刷して医師に渡してくれるアシスタント、予約業務や質問を受ける受付、もちろんナースも、そういったことを理解している必要があります。

 

 

一定以上の規模の施設で、バリエーション豊かな治療方針やオプション検査をしっかり実施し、かつスムーズな外来を運営していくことは決して平坦な道ではありません。検査だけ希望の方から、タイミングから人工授精~高度生殖医療まで、不妊・不育・着床障害(オプション検査)、卵質改善から男性不妊まで、幅広くあらゆることに対して、豊富なバリエーションを持って提供することは決して容易なことではありませんが、リプロダクションクリニックでは1日も早く皆様に幸せをお届けするために、1人1人のスタッフが日々努力しています。

 

 

筆者のところには、毎日のように様々な部署のスタッフからたくさんの報告や相談が来ます。どうすればより良い医療が提供できるのか、皆、熱い想いで日々の業務に取り組んでいます。このようなスタッフと共に皆様に医療を提供できることは幸せなことです。みんな、いつも本当にありがとう。

 

皆様のご来院を心よりお待ち申し上げております。今後ともよろしくお願い申し上げます。