リプロダクションクリニックの魅力は色々あります。生殖医療専門医(指導医)もたくさんいるし、症例数も豊富、採用薬剤もたくさんあるので多様な状態に対応できるとか、男性外来も毎日あるので男女ともに最善の治療ができるとか、スペック面ではまだまだ魅力はたくさんあります。

 

でも、仕事をしていて思うのが、当院はEBMとポピュリズムのバランスが上手だと思うんですよね。

 

EBMとは、エビデンスに基づいた医療のことです。もちろん医療がエビデンスに基づいていることは大切なんですが、データって色々あるんですよね。例えば、胚移植におけるホルモン補充周期。昔はホルモン補充周期がいい、というのがエビデンスだったわけです。ところが5年くらい前から、「自然周期のほうが周産期予後がいい、安全だ」というデータが出始めた。時代は一気に自然周期に傾きかけました。ところが、2024年くらいから、「いや、やっぱり自然周期とホルモン補充周期は安全性に差がない」と言われ始め、2025年になると、「やっぱちょっと自然のがいいかも」というデータも出た。データが大事なのは分かるけど、胚移植はホルモン補充か自然か、という、こんなシンプルなことですらエビデンスは年単位で揺れまくっていて、それに加えて、最終的にどちらが本人に合うかという結果論的な要素も実は無視できないほど大きい。

 

このほんの一部だけ切り取ってきて、「〇年の論文では、こんな風に言われていますので、〇〇という方法が妊娠率がいいです」なんて訳知り顔で言われたって、どこまで信用できるんですか、それは私にとって正解なんですか、っていう話であり、論文とかエビデンスなんて、肯定的なものも否定的なものも合わせて1個のテーマに対して一定数確認しなかったら何が正解かなんて本当の意味では分からないと思うんですよね。そして、そこに書かれているデータ(数字)は1つ1つ違う。そういう意味では、私は、ことさら「妊娠率」という数字ばかりを強調するスタイルは、必ずしも患者さんのためになるとは考えていません。

 

結局やってみなきゃ分からない、と申し上げると不審そうなまなざしを感じますが、真実なんだから仕方がない。ただし、行き当たりばったりやればいいというものではなくて、どの順番で何を試すか、という部分にはしっかりとした理由なり根拠が大切です。医師にはそこを見極める能力が求められます。

 

 

論文の数は少ないけど、いいという論文もありました、みたいな医療の信頼性はどうか。いわゆるエビデンスレベルは高く考えられないことも多いものの、実際にやってみると、それでうまくいく方もいたりするわけです。こうした医療に対して、エビデンスがない、エビデンスが乏しいと斬ってしまうのも勿体ないと思います。

 

かといって、エビデンス無視で、良く言えば独自、悪く言えば独りよがりな医療をするのもいかがなものかと思います。そういうクリニックもありますね。あるいは、患者さんの顔色ばかりを見て希望通りする、ザ・ポピュリズムみたいな医師もいますが、それもどうかと思います。

 

当院ではエビデンス無視の独りよがりの医療はしないけれども、データだけをことさら重視しすぎず、向き不向きもよく考えて幅広い選択肢の中から治療方針を選択するようにしているし、試せることはどんどん試して最短でゴールできるように努めています。その上で、患者さんの、これやってみたい、これはやりたくないという希望があれば、ちゃんと話を聞いた上で、こちらの方針もあらためて説明して、話し合って方針を一緒に決めていく。エビデンスか経験か個別化か、ではなく、全部重要。結局、大切なのは、このあたりのバランス感覚で、そのあたりが当院の一番の強みなんじゃないかなと思っています。