前の記事で、立ち合いの変化を話題にした。
変化というのは賛否があるところ。張り手、それにカチ上げ・・・または「肘打ち」がどうなのかというのも、是非を巡っては議論の余地もあるだろう。
しかし「『ダメ押し』は是か非か」というタイトルは何だ。それは相撲の取り口の話ではなく、勝負がついた後のことだからいけないに決まっている、是も非もあるまい――と言われそうだ。いや私もそう思う。
●小坂秀二の「ダメ押し肯定論」
ところが意外にも、力士の土俵態度には厳しかった小坂秀二氏が「ダメ押し肯定論」を唱えている。
小坂秀二(読売『大相撲』1980年秋場所総決算号74ページ)
読売『大相撲』1981年夏場所総決算号の「夏場所総評座談会」で、北の湖のダメ押しが少し話題になった(73ページ)。
司会の京須敏明氏が「土俵を出てからもダメを押すんですが、本人(北の湖)は行司のうちわが上がるまで安心できないからやると言ってました」と言うのを受けて、小坂氏は「それは当然だと思います。あれ(ダメ押し)が相手にひとつの脅威を与えると思います」と、あっさり認めた上で、
昔アマチュアレスリングに笹原正三という人がいたんですが、あの人のレスリングを見て非常に感心したんですが、マットに仕切りがあって、そこから出ると笛が鳴って場内に戻されるんですが、上に乗って攻めているときに、場外に出ているとわかっていて、レフリーの笛が鳴ると、下の者は助かったと思って一瞬気を抜く。そこで一度ぎゃっと押さえつけてから戻る。それで相手を精神的にも肉体的にも痛めつける。そうすると相手は萎縮しちゃうんです。ぼくは、勝負というものはそのくらいの厳しさがないといけないと思うんです。
と、これはダメ押し容認どころか、むしろ大いにやるべきという意見。
北の湖(手前/『大相撲』誌 1981年夏場所総決算号「夏場所熱戦グラフ」より)
尊敬する小坂秀二氏の意見だが、これはどうなんだろうと思う。力士は自分が負けたとわかると自然に力を抜くもの。その無防備な状態のところへ、もう一押しすれば、不測の怪我につながる危険性もある。
それに「相手に脅威を与える」というのは、小坂氏が崇敬する双葉山の「木鶏」の精神にも悖るのではないか?小坂氏の語る双葉山は、決して相手に脅威を与えるという横綱ではないはずだが。
若手なら、それくらいの気迫があってもいい、若気の至りだ、というのもわからないではない。しかし、この当時の北の湖は28歳。力士としては円熟と言われる時期に入る頃だ。
●一種の「詰め」
ただ、ダメ押し肯定論に一理あると思うのは、相手を追い詰めて「勝った」と思ったら、まだ相手は土俵を割っておらず、逆転、または攻め返される可能性もあるから、普段からダメを押すくらいのクセをつけておいた方が、詰めを誤ることがないということは言える。北の湖が「行司のうちわが上がるまでは安心できない」と言っているのもそこだろう(それと、小坂氏の主張を徹底するなら「相手力士も、負けたとわかった後でも逆転の投げを打つくらいの気合を見せろ」ということになるのかも知れない)。
●でもダメ押しはダメ
そうはいっても、安心できないでダメを押すというのは、結局のところ相手と自分の状態を把握できていないところからくるものだと思う。余裕がないということだ。
さっき双葉山の名を出したが、六十九連勝中の1939年春場所二日目、竜王山を突き出した瞬間、双葉山は土俵際からスススッと下がる動きを見せている。
竜王山(右)を突き出したあとの双葉山 スッと後退して竜王山から離れている(DVD「大相撲名力士風雲録・双葉山」ベースボール・マガジン社)
これは想像だが、勢い余ってダメを押してしまわないために、急いで相手から離れたのではないだろうか。そのためには間違いなく勝ったという瞬時の判断が必要。それが先ほど言った「相手と自分の状態を把握できている」ということ。
(小坂氏が、北の湖に「相手に脅威を与えるくらいでいけ」というのは、一つには北の湖に「木鶏」を求めても無理だと考えていたのだろうと思う)
なんといってもダメ押しは、された力士には不愉快なものだ。竜虎(勢朋)も、著書の中で「あれはひどいよ。こっちが『負けました』という態度を示しているのに押すんだから」と書いている(『竜虎の気分は最高――大相撲激笑九十六手』青樹社)。
(竜虎によると、ダメ押しをすると、取組後に力士が入る支度部屋の奥の風呂場で力士同士が「何だ?さっきのは!」と喧嘩になることもあったという。といっても関取にまでなると、さすがに喧嘩はしないが、幕下以下の、特に若い力士はダメ押しが原因で、風呂場で相撲の第二弾をやることも、ままあったそうだ)
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