3月下旬、1本の電話が入りました。電話の主に心当たりはありません。

 

昔は今程個人情報が厳格に考えられていなかったので

関わりを持った人に簡単に連絡先を教えて、それが後に独り歩きしてしまう事がよくあります。

 

連絡先の入手経路を聞いてもはっきりせず、とにかくボランティアを探していると言うことにでした。

 

私は既にボランティアは辞めている

と伝えると、とてもがっかりしていましたが、取り敢えず話を聞いてみる事にしました。

 

近所の猫が充分な世話を受けられず、ガリガリに痩せて毛も抜けている。

奥さんが生きていた頃は毛づやもよく太っていたが、数年間に亡くなってからは80代のご主人が独り暮らし。

足が不自由で歩行器を使っての移動がやっとで、日中デイサービスに行っているらしい。

 

たまに自分の庭にもやってくるので、その時はカリカリを与えている。

 

 

情報提供者◇さんの希望は

その気の毒な猫をボランティアが引取って必要な治療を受けさせ、その後もずっと世話をして欲しい

という、実に虫のいい話でした。

 

(私はもうボランティアではないが)仮にこの情報がボランティアの耳に届いたとしても

それを丸ごと引き受ける人などいないだろう

地域の猫として◇さんが世話を続けるのが最適ではないか?

薬が必要なら抗生剤やステロイド位なら提供できますよ

と伝えると、とたんにトーンダウンし、出来ない理由をアレコレ並べ立てました。

 

中でも最大の理由は

「ご主人の反対」でした。

しかし、◇さんは今まで、家猫一匹、外猫数匹に餌やりしていたらしいのです。

だからこそ、その憐れな猫の事も気になったのでしょう。

 

ご主人の了解を得る必要はないのではありませんか?

隠れてやれば良いのです

と伝えてましたが、釈然としない様子です。

 

これが家から遠かったら、スルーするところですが

車で10分位の場所なので、

力になれる事があるかもしれない

と、現地に行ってみる約束をしました。

 

待ち合わせの場所で出迎えてくれた方はスレンダーな高齢女性で80代との事ですが、動作もきびきびしていて、私よりずっと健康的に見えました。

 

「たまたま今、来たので、フードを上げたら、食べている。そろそろ食べ終わる頃」

というので急いで駆けつけると

確かに8割方食べ終えていましたが、持参したドライを追加したら味が違うのか

再び食べ始めました。

食欲はあるようです。食べ方を見ていると口を痛がる様子はありません。

 

◇さんはガリガリというけれど、むっちりした体型で肉付きは悪くありません。

 

最大の問題は全身の皮膚病です。

あちこち掻き壊した後があり、痒みが強そうです。


 
◇さんは虐待では?と言いますが、そうとは思えません。

 

食べ終わると、悠々と立ち去りました。

◇さんの庭はとてもきれいに整えられ、バケツに新鮮な水がなみなみと入っていました。

 

当面、皮膚病さえ何とかすれば、この地域で茶トラくんが生きていくのはそれ程難しくはない

と思われました。

 

以前はここに沢山の野良猫が住み着いていたそうです。

 

それを7~8年前にボランティアが入り(私ではない)一斉に不妊去勢手術をしたので、それからは徐々に数は減ったらしい、のです。

 

さて、これからどうするか?

もしこの猫を病院に連れて行く

としたら費用は負担してもらえるか?

と尋ねました。

すると、とたんに表情が曇り

先ずは飼い主が負担するべきではないのか?

と言う話しになり、数十メートル離れたその家に向かいました。

 

これは少し意外でした。

大抵の場合は、相手に対して「通報者は自分だ」と知られるのを嫌います。

ご近所付き合いが気まずくなるという理由です。

 

その点◇さんは全く気にしていないようでした。

しかし、それにしては無断で茶トラくんをボランティアの手に渡そうとしました。

飼い主責任を問うなら、それもしてはいけないのではないか?

との思いがよぎりました。

 

飼い主?さんは留守でした。

多分デイサービスに行っているのでしょう。

庭は荒れ果てていました。

たわわに実った夏みかんも採る人がいないようです。

玄関前に置かれた埃まみれの陶器の人形たちに

女主人が元気だった頃は丹精込めて世話された庭の面影が偲ばれました。

 

掃き出し窓の下にフードの容器と水入りがあり

少なくとも、給餌はされていると安堵しましたが

良くみると容器は空で、水はどろどろに腐り、虫の死骸が入っていました。

 

自分の身の始末も儘ならない人に猫の世話を要求するのは酷だ

とその時思いました。

 

そして、私は良いことを思いつきました。

 

この庭で◇さんが餌やりを続ければ良いのだ!それならご主人に知られる事もないだろう。

(◇さんは渋い顔)

 

しかし、その為には敷地内に立ち入る了解を得る必要があります。

後日出直す事になりました。

 

数日後、日程調整の為に電話すると◇さんは明るい調子で

その問題はもう大丈夫!

この前車が止まっていたので、行ってみたら息子さんだった。

 

猫の話しをして了解して貰ったから大丈夫!餌もやるって。

 

皮膚病の件は?

 

それも話したから大丈夫!

また何かあれば連絡するから

と、まるでもうこの話しはお終い!と言うように、強制終了されてしまいました。

 

果たしてそれで良いのだろうか?

 

どうすればあの皮膚病を治してやれるか?

と考えを巡らせていたところです。

屋根に上ったら梯子を外された思いで私はモヤモヤしています。