『蓮キョ☆メロキュン推進!ラブコラボ研究所』に参戦です!
「メロキュンカフェバー」企画に参加させていただきました(*^^*)

今更ながら、ホワイトデーネタでございます。
成立後です。

では、どうぞ(*´∇`*)


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キス・イン・ザ・ダーク~チェリーの魔法~






地下にある、ほんのり照明が照らされる程度の、薄灯りのクラシックなカクテルバー。
まるで隠れ家のような、慣れない大人な雰囲気にドキドキして。

…そして、隣に座る敦賀さんをちらりと盗み見て、更に鼓動が速くなるのを自覚した。


「敦賀さんとこうして並んでお酒を飲んでるって、なんだか不思議ですね」


20歳の誕生日に、敦賀さんに想いを告げられて、それから2ヶ月と少し。
なにも知らない私に、敦賀さんは、人を愛する楽しみや愛される喜びを教えてくれた。
敦賀さんの想いに答えたくて、バレンタインには敦賀さんでも食べられそうなちょっぴりビターなチョコレートを用意して。

今日は『そのお返しに』と、敦賀さんはこの場所に連れてきてくれた。


「そうだね。最上さんの隣にいるのが俺で…本当に良かった」


お付き合いを始めてから、敦賀さんはたくさんの甘い言葉を私にくれて。
今までそんなことに無縁だった私は、どんなリアクションを返したら良いのかもわからなくって。
ただただ顔を赤くして、俯くことしか出来ない。

もらった言葉は全て、私の宝物。
だけど…。

2ヶ月程が経過してくると、私の中にも欲が出てきて。
少しの不満だって、言えないけど、実はあったりする。


「…あぁ、次は何にする?」


空になった私のグラスに気が付いて、敦賀さんがメニューリストを差し出す。
それを受け取り見てみるけれど。
……実は、もう頼みたいものは決まっていた。

こんなこと考えてるなんて、恥ずかしくって言えないでいたけれど、今日は特別。
カクテルにのせて、私の想いが敦賀さんに伝わるかな。

声が震えてしまいそう。

敦賀さんの瞳をまっすぐに見つめて、そして、しっかりと告げる。


「じゃあ…。

『キス・イン・ザ・ダーク』を――」





私の前に置かれたのは、ショートのカクテル・グラス。
その中にはまるで燃えるような愛をイメージしたかのような、深い紅が輝いていた。


『キス・イン・ザ・ダーク』――。


甘い言葉も嬉しいけれど、もうそれだけじゃ足りない。
飾った言葉じゃなくて、敦賀さん自身を知りたい。
言葉だけじゃ不安なの。


敦賀さんの――…キスが、欲しいの。


グラスを手に取り一口飲むと、ジンの苦味の中にふわりと香るチェリー・ブランデー。
お酒が飲める年になって間もない私には、それは少し刺激が強すぎて。
それでも、私は敦賀さんに気付いてもらいたくて、必死にグラスに口付けた。

カクテルに、願いながら。

――私に、『勇気』という魔法をかけて――




***



「――大丈夫?立てる?」

「ん…はい…」


お酒の刺激はやっぱり私には強すぎたみたいで、お店を出る頃には立つのもやっとの状態になってしまっていた。


「ほら、掴まって?タクシーで帰ろう」


私の手をとろうとする敦賀さんに、イヤイヤと首を振り拒否する仕草をみせる。
でも。
酔った中で首を振るものだから、頭がぐらぐらする。
意識と言動がバラバラで、まるで自分のものじゃないみたい。

敦賀さんの腕にそっと触れて、顔を見上げる。


「やです、すこし…歩きたいです」


まだ帰りたくない。

目と目が、合う。
敦賀さんは私の気持ちを汲み取ってくれたのか、私の頭をポンとひとつ撫でて、そして優しく微笑んで言った。


「じゃあ…、散歩して帰ろうか」




地下の階段を上がり外に出ると、夜もすっかり更けて、辺りは静かで真っ暗な闇に包まれていた。
3月も半ばで春が近づいているというのに、風は冷たい。
お酒を飲んで体は火照っているはずなのに、私は急な気温の変化に身がすくんだ。


「寒い?」


敦賀さんの腕に掴まり腰を支えられている私に、敦賀さんが優しく声をかける。


「大丈夫です」


ここで『寒い』と言ったら、きっとすぐに帰されちゃうもの。


「敦賀さん、公園に寄っていきましょう?」


敦賀さんの腕を引き、ふらふらな足取りで前を行く。
さっきから我儘ばかりで、敦賀さんを困らせてしまっているかな。
でも…、こんな我儘は、酔ってるからこそ言えるんだ。




たどり着いた公園には、桜の木がたくさん並んでいた。
まだ風も冷たいのに、蕾を付けて。
どことなく、春を感じさせる香りさえする。
あと数日もしたら、咲き始めるのかもしれない。

腕を組んだまま桜の木を二人で見上げる。

恋は、桜の花に似ているのかもしれない。
蕾のまま寒い冬を耐え忍んで。
そして、暖かくなって、春に誘われて初めて花ひらく。


「敦賀さん」

「ん?」

私は蕾から目を離さずに、敦賀さんに問いかけた。


「私のこと、好きですか?」



いくら甘い言葉を貰っても不安は消えないのはわかっているくせに。
それでも、証がほしくて求めてしまう。

でも、敦賀さんから出た言葉は、私の予想とは違い、甘い言葉ではなかった。


「――さっき最上さんが飲んでいたカクテル…。

『キス・イン・ザ・ダーク』だったよね…?」

「えっ…?」


思わず蕾から目を離して、敦賀さんの方に顔を向ける。


そこからは、一瞬の出来事だった。
敦賀さんの顔が近付き、影を落として。
目の前がますます暗くなったら、唇に柔らかなものの感触。


『暗闇で、キス』―――。


「これで、答えになるかな?」


いつもは言葉で伝えてくれる敦賀さんがこんなことをするなんて、思ってもみなくて。

私は自分の唇を押さえたまま、動けなくなってしまった。



「…ごめん、もう一回…」



二度目に触れた唇は、ゆっくりと角度を変えて。

二人の想いが、やっと重なった気がした。


チェリーの魔法、敦賀さんにも効いたのかな。




キスは、甘いチェリー・ブランデーの香りがした。