「……体を動かすのはあまり得意じゃない」
「まあ、そう言わずに!『良質な睡眠は良質な運動が要』って言いますし」
澄んだ青空の広がるデート日和。キャッチボールでもしようと私は、桧山さんを誘って公園に来ていた。
(桧山さん、本当に睡眠時間短いんだよね。毎日2、3時間とか……さすがに心配したくなるし)
考えながら手の中でボールを転がしていると、隣から見透かしたような声が降ってくる。
「俺はショートスリーパーだ。心配しなくていい」
(全部ばれてる……!)
「あっ。あの辺り空いてますよ」
私は誤魔化すように正面のスペース目指して軽く走った。
「…………」少し距離を取って振り返ると、桧山さんはやれやれと小さな溜息を吐いていた。
(それでも何だかんだ言って付き合ってくれるあたりが優しいなあ)
「じゃあ、行きますよーっ」
「受けて投げればいいんだな?」
「はい!」
うなずいて、まずは軽く投げてみる。
桧山さんは難なく受け取って、私にボールを返してきた。
(わっ、結構重い球)
「…………」もう一度投げると、今度はさらに速くなって返ってくる。
球は重いのに、桧山さんのフォームは何てことないような軽さで、ギャップが大きかった。
「体動かすの得意じゃないって――よっ、と。本当ですか?」
「得意じゃないというか、好まない」
(なるほど、苦手なわけじゃないと……)
納得しながら続けていると、速い球を受け続けた手がちょっと痛くなってくる。
「あっ」
「……?どうした」
ついボールを取り落とした時、桧山さんがふと首をかしげて、
「見せてみろ」桧山さんはすぐに気づいたように慌てて駆け寄ってきた。
腕を取られ、赤くなった私の手のひらに柳眉が寄せられる。
「あはは、すみません。結局私のほうがひ弱だったみたいで――」
「……グローブ……」
(グローブ?グローブがあれば良かったってこと……?)
見上げた桧山さんの表情は想像以上に心配そうで、優しい瞳に胸が甘く締め付けられる。
(……やっぱり優しい人だな)
痛みなんて、一瞬で吹き飛んでしまった。
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚