(あれ、この平積みされてる本……)
仕事帰りに入った本屋で、見覚えのある表紙が目に入る。
(この前荒木田さんが読んでたやつだ。確か面白いって言ってたはず……)
ポップにも発売以来、その完成度の高さが評判を呼びじわじわと売れていると書かれている。
(うーん、荒木田さんが面白いって言う時点で外れはなさそうだし)
(その上評判もいいとなれば買うしかない気が……)
「何悩んでんだ?」棚の前から動かない私が気に掛かったのだろう。
峻さんは私の肩越しに平積みにされている本を見る。
「これ、買おうかどうか迷ってて」
「ミステリーか……。お前、こういうの好きだったか?」
「割とジャンルは気にせず読むんですけど、荒木田さんが面白いって言ってたので」
「…………」
どうしてか微妙な顔をしてこちらを見てくる。
「なんですか、その目」
「……別に」微妙に間を空けてから返答があったのが気になるけれど、しつこくあれこれ聞くのもよくないだろう。
「あ、そうだ。峻さんのオススメも教えてくださいよ」
話を変えるついでに、そんな提案をしてみる。
「ま、教えてやってもいいけど……」
(峻さんに本を勧めてもらうの初めてだし、楽しみだな)
一体どんなのが出てくるのだろうか。
(やっぱりフィクション小説かな。でも実用書ってのもあるかも)
(案外漫画とか……?いや、それはないか)
「ほら、これ」手に持たされたのは妙に重い本。
表紙の手触りは少しざらってしていて――
(これ、ペーパーブックの洋書……そうだ、この人帰国子女だったんだ)
「あのー、すみません……洋書をスラスラ読めるような英語力はないんでこれはちょっと」
「俺が教えてやる。買え」
「強制ですか!?」
「決まりだな。レジ行くぞ」
普段も有無を言わせず物事を決めるところがあるけれど、今日はいつになく強引だ。
「いや、ちょっと峻さん――」
「さっきの本読むより確実にスキルアップになるぞ」
その一言ではっと気づく。
「もしかして……荒木田さんにヤキモチ焼いてます?」
もし何がなんでも自分のオススメを買わせたいと強引に話を進めているのなら、
素直にそれに乗るのも悪くないと思える。けれど――
「あなたの無い頭が少しでもよくなればと思ったのですが」この口調になると言うことは、たぶん図星と言うことだ。
「素直になってくれないなら、荒木田さんのオススメを買います」
少し脅すようにそう言うと、峻さんは一転してぶすっとした顔になる。
「……好きな女のためにヤキモチ焼いて悪いかよ」
「いいえ。むしろ嬉しいです」
「じゃ、それ買えよ」
「その代わり、毎晩ちゃんと教えてくださいね?」
「さ、今日もよろしくお願いします!」
私はこの前買った峻さんのオススメの本を取り出し、机の上へと置く。
けれど向こうのリアクションは微妙なもので……
「これだけ時間かけてもまだ5ページしか進んでねーんだぞ?もう諦めろ。お前に才能はない」「ちょっと!峻さんが教えてくれるって言ったから買ったんですよ?」
「責任持って最後まで指導してください」
「冗談だろ……」
嫌そうにため息をつきながらも、峻さんは本を手にとってしおりを挟んでいた場所を開いてくれる。
「単語は自分で調べろ。どうしても分からないとこだけ俺に聞け」「はい!今日は10ページまで行けるよう頑張ります」
「ったく……こんなことになるなら買わせるんじゃなかったな」
「でもその場合、私は荒木田さんのオススメを買っていたわけですが……」
「うるせー、集中して読め」
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(*>ω<*) ヤキモチ最高ぉー♡