君に伝えたいことがあるー上ー | BLACK-SKY

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ひとりごととか、小説だとか。

取るに足らない言葉たちの遊戯会。


季節も秋から冬への衣替えを始めているらしい。

頬を刺す風はいつもより冷たくて、スニーカー越しに通り抜ける風が容赦なく爪先を冷やす。


そんな僕の両脇をはさんで、渚と龍也が並んで歩いている。

いつもと変わりのない登校風景。形容すればそういうことだった。







「帽子、被ってくればよかったね」

冷え切った僕の耳たぶをつねりながら渚がふわりと笑う。

寒いとすぐに赤くなってしまう僕の体質を笑っているらしかった。


渚とは、四年生から仲が良かったから、六年も友人を続けていることになる。

飽きっぽい僕からすれば大変な記録だけど、渚にはそうさせるだけの何かがある。


穏やかな渚に、何度となく救われたことかと思う。

そんなこと、面と向かって言ったことはないけれど。




「さみぃな。あー、誰かマフラー編んでくれねぇかなー」

品のない笑みを貼り付け、そんなことを言うのはいつだって龍也だ。


三年になってから何となく意気投合して連れ立ってはいるものの、

要所要所で僕は、何度となくこいつを殴りたいと思った。


自分さえよければいい、こいつはそんな人間だから。






「おっ、あれ、大輝じゃね」

獲物を見つけた肉食獣のように、龍也の横顔に邪な笑みがじわじわ広がる。


前方を向けば、紺のジャンパーに身を包んでのそのそと歩いてくるその姿は、紛れもなく大輝だった。


――ああ、また来てしまった。




十分大輝の姿が確認できるようになったところで、いつものように龍也が言う。

「だーいきくん」


薄手のジャケット越しに、痩せ細った大輝の肩がびくりと動く。

それでも大輝は唇を噛みしめたまま、俯いて足早に行き去ろうと試みる。


――逃げろ。そいつから逃げてくれ。



そんな思いも虚しく、龍也の腕が大輝の胸倉をがしっと摑んだ。

大輝は龍也を睨みつけたが、抵抗する術はないと悟っているのか、手を振りほどくことはしない。




「なぁ、今、無視したよな。無視」


大輝は昆虫のような迫力のない目つきで、尚も龍也を睨む。


「答えろって、おい」

息も詰まる沈黙の中で、凍てつく風だけが吹きすさんだ。

大輝は依然として口をつぐんだまま、身じろぎしようともしない。



これから何が起きるのか分かりきっているだけに、この嵐の前の静けさが身を切るように辛い。

――頼むから逃げてくれ。このままで、無限ループのままでいいのかよ、お前は?


「お前、この前、2組の渡辺に告ったんだって?」



龍也は決して暴力を振るわない。

痣などを残したりしてしまえば、それだけで証拠となるからだ。


ただ、言葉の暴力の場合は、大輝が録音でもしていない限り、証拠が残ることはない。





卑劣な奴だと思う。


軽蔑に値するし、しなくてはならないと思う。

けど、傍観していることしかできない僕が、渚がいた。



仲良くなり始めた当時は、猫を被っていたにしろ、それでも大切な僕らの友達だったから。


何度となく渚と、このことを先生に報告しようかと話し合った。


そうすればいじめは解決する。龍也は更生し、大輝は解放される。


でも、僕らは?

罪悪感に苛まれながら、これからの人生を過ごしていかなければならないのか?



結局は保身のために、僕らは一歩を踏み出せないでいるのだった。

















「――問二、誰か黒板で解いてくれる人」


龍也の酷い罵倒を聞いた後では、全身に無気力の粒子が隈なくちりばめられているようで、とても点数稼ぎをする気にもなれない。


誰も手を挙げるものはいなかったようで、今日の日直という理由で柴田が選ばれる。


当の柴田は背が低いため、黒板に答えを書くのにかなり苦戦していた。

そんな背中に、ここぞとばかりに罵声と笑い声が降りかかる。


「お前、バスケ部のくせにそんなんでシュート入んのかよ」


「牛乳足りてないんじゃねーの? 俺のやるからありがたく飲めよ」



胸が悪くなるような空気だった。

苛つきながらふと柴田を見ると、柴田は口許に血を滲ませながら、やめろよと苦笑していた。


――えっ? 血?


見間違いだろうかと首を伸ばし、これでもかと目を凝らす。

それでも柴田の口の端を伝っているのは、紛れもなく赤黒い血糊だった。



「柴田、口。なんか付いてる」


「え?」

柴田はチョークを繰る手を止め、制服の裾で口許を拭う。

的確に血が付着していた箇所を掠めたはずなのに、それでも赤い染みは取れない。


「まだ付いてる? こっち?」


「いや、まだ付いてるけど、さっきのとこに付いてて。いや、だからさ」



「お前何言ってんだよ、何も付いてないじゃねーか」

誰かが言い、そうだそうだとクラスが湧く。


「え、でも」

そんなはずはないのだ。現に僕には見えている。

それでも嘘つきと僕を罵る声は鳴り止まないでいた。








「颯、さっきどうしたの?」


数学が終わって間もなく、渚が尋ねた。

大人びた表情を不審そうに歪めているところからすれば、渚も僕の言うことを狂言と見ていたらしかった。


「渚には見えなかった?」


「何が?」


「血だよ。こう、口の端の辺りに、だらーっと滴ってて」


「血? そんなの見えなかったけどな」

そう言って、渚はにきび一つない真っ白な額に縦皺を刻む。



皆して僕をハメようとしている訳でもなさそうだ。


ということは、

誰にも見えなかったものが、僕だけに見えていたということなのだろうか。







非日常への入口はいつだって日常の中にある。


僕の頭の中ではいつか聞いたそんな言葉が、ただぐるぐると渦巻いていた。


























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特にタイトルも思いつかなかったので、

ありのままの等身大の気持ちをそのままタイトルにさせていただきました。



3話完結のつもりです。



ちなみに最後から2行目に出てくる言葉は

私が勝手にでっち上げたものです(盗作だったらごめんなさい)




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