女は、例によってカーテンを閉め切った薄暗い部屋の中央に座り込んでいた。
女は口の端に薄ら笑いを浮かべ、両手に薄汚れた藁人形を握り締めている。
――それにしても待ちきれない。今すぐ殺してはいけないだろうか?
女は自らに問いかける。が、無論答えはノーだ。
分かっている。分かってはいるのだ。
今すぐ「あいつ」を殺してはいけないことを。
そうすれば、自らの命さえも危ないということを。
「……でも、抑えきれないものだってあるさ。例えばほら、殺意とかさ」
誰一人とていない闇の中。
女は自らに語りかけるように呟くと、藁人形を握り締める手に一層力をこめ、口の端が張り裂けそうになる程の狂気染みた笑いを浮かべた。
――そう、抑えきれないものだってあるさ。
だから……許されるだろう?
女はそう呟くと、異常なまでの笑みを浮かべた口許へ藁人形を近づけていく。
そして、藁人形の耳に当たる部分に向かって、蛇の鳴き声かと思われるような声で囁きかける――。
「来るんだ、シャミー・ブルータス……我が下へ」
***
シャミーは耳を疑った。
聞こえるはずのない声が、またしても聞こえてしまったからである。
地獄の底から響いてくるような恐ろしい声が。
地の果てから届いてきたような狂気染みた声が。
それも、あの恐ろしい声は、自分の名を呼んでいた――。
「ただいま」重厚な木の扉を開いて、シャミーは絞りとるように何とかそう言った。
「お帰りなさい。おやつはテーブルの上ね」母の溌剌とした声。
「……いらない」
掠れた声を発すると、シャミーは階段を駆け上がり、自分の部屋に向かった。無論、一人になりたかったからに他ならない。
床にどさりと鞄を放り出し、シャミーは悶々としたままベッドに浅く腰掛けた。
目を閉じ、渦巻く闇の中に敢えて身を置く。
そうして深呼吸をすると、頭の中で霧の如く漂っていた漠然な考えは、徐々に形あるものへ変わり、気分も落ち着いていくのを感じられた。
再度目を開けた時、シャミーは自分でも驚くほど落ち着き払っていた。
決意は固まった。
勇気も湧いてきた。
そして何より、それを実行するだけの力が自分にはある――。
自分には、地球に匹敵するほどの力が秘められている。
シャミーは幼い頃から言い聞かせられてきた神話を、今度こそ信じることに決めた。
そう、自分を信じなければ、マリオネットを無事に持ち去ることなどできはしないのだ。
私はやらなければならない――。
静かなる決意を胸に秘め、シャミーは輝きを放つ水晶玉を手に取った。