――死の、マリオネット……
シャミーは一旦はそう考えたが、すぐに思い直して目を瞑った。渦巻く闇が広がる。
何だかそれが妙に恐ろしくて、シャミーは再度目を開け、三日月の放つ淡い光を浴びるように寝返りを打った。
「……あんなの、手に入る訳、ないじゃん」
シャミーは自分に言い聞かせるように小さく呟いた。
でもその言葉が何だか空しく感じられて、シャミーはもう何が何だか分からなくなってしまった。
――でもやっぱり、そうだとしたら?
新たな疑問が芽生える。
シャミーは結局考えることを放棄し、カーテンを閉め切ると、頭まで毛布を被った。
……死のマリオネット、とは。
エスパー界に古くから知れ渡る、一種の都市伝説である。
その容姿については諸説ある。
ある者は、それは色白の日本人形だといい、ある者は古びたフランス人形だといい、またある者は、藁人形のようなものだと主張する。
早い話が、誰もそれを見た事がなく、勝手に想像しているだけだということだ。
重要なのは、その用法だ。
その名の通り、「死のマリオネット」なる人形は、ある特定の人物に死をもたらすことの出来る、呪いの人形。
それを手にしたものは、密かに恨んでいる特定の人物を意のままに操り、やがて死に至らしめることが可能なのだとか。
勿論シャミーだって、その話を聞いた時は、そんなはずがないとせせら笑った。
そんな話、幼稚園児だって信じないと。
所詮起こりうるはずなどないと。
しかし、だ。
しかし、それが現実のものだとなると、話は大きく違ってくるのではないか。
毛布の中で、シャミーは先日のことを思い出していた。
先日、登校中に起きた謎の吐き気と眩暈。
今現在、頭に感じているちくちくとした痛み。
もしかすると、これらは全て、エリーゼの仕組んだことなのではないだろうか?
もしかすると、自分は、
命を、
狙われているのでは、ないだろうか?
***
カーテンを閉め切った部屋の中、灯りとなるものは、ベッド脇のサイドテーブルに置いた小さなアロマキャンドルだけだった。ファンからの贈り物だ。気持ちは有難かったが、正直この甘ったるい香りは苦手だ。
薄暗い部屋の中で女は、ベッドに腰掛け、揺れるキャンドルの灯りを眺めていた。
その手にしっかりと握り締められているのは、藁人形――いや、「死のマリオネット」なるものだ。
「苦しめ……苦しめ。せいぜい苦しんで死ねばいい」
女は藁人形に鼻が触れるほどに顔を近づけ、虫の鳴くような小さな声で囁いた。
「そうだな……頭痛の次は、何がいいかな? 骨折か? 交通事故か?」
女はさも愉快そうに、狂気染みた笑い声を放つ。
「……まあ、どうでもいいさ。間もなくお前は死ぬんだから」