「ブルータス! 確か君は倒れて、保健室で眠っていると思ったのだが……」理科の先生が理解不能といったような声を上げて慌てる様を、クリスは微笑みさえ浮かべて傍観していた。
「あの、でも、もう大丈夫ですから。授業を受けさせてください」そう頼み込むシャミーの額には、一筋の汗。……本当は、まだ具合が悪いのだろうか? クリスは急に不安になる。
「ううむ、そういうことなら……」それには気付かないように、先生。
「ありがとうございます、先生」シャミーは仄かに青い顔色をしたまま、席に着いた。
「……しかし、本当に平気なのかね?」シャミーが席に着いた後で、先生はなおも納得できないといったように呟いた。
「問題ありません、先生」
しかし、そう答えるシャミーの肩は、微かに震えていた。
――何で嘘なんかつくんだ。
クリスは、シャミーの異変に気付きながらも声をかけられない状況に、自分に、憤りを感じた。
***
シャミーは先生に嘘をつき、自分の席に着いた。
何故具合が悪いのにわざわざ教室に舞い戻ってきたか、自分でもよくわからない。
強いて言えば、虫唾が走るような校医の先生と同じ空間にいたくなかったせいだろうか。
退屈極まりない授業をノートに取りながら、シャミーは、鉛筆を握る自分の手が微かに震えていることに気付いた。
――でも、保健室にいるよりはこの方がいいはず。
そう自分に言い聞かせ、震えを無視し、シャミーはノートを取り続ける。
異変に気付いたのは、授業も終盤に差し掛かった、その時だった。
シャミーは欠伸を噛み殺し、チラッと教室の時計に目を走らせた。
授業終了まで、あと僅か五分。
五分で、退屈な授業からも、眠気からも解放されるのだと思うと、シャミーのテンションは上がる。
その時点で、シャミーは震えから解放されていることに気が付いた。
何となくだるいような感じも、ない。汗も、掻いていない。
そう思うと更にテンションも上がる。
その時だった。
シャミーがある異変に気付いたのは。
――先生の低い声に交じって、甲高い女性のような声が聞こえてくるのだ。
シャミーはぞっとした。
これは、誰の声なのだろう――
神経を研ぎ澄ませ、その声だけに意識を集中させる。
そうすれば、女性が何と言っているか聞き分けられるはず。
集中し、僅か一分弱。
女性が何を言っているか、聞き取れ、シャミーは戦慄が走るのを感じた。
女性はこう言っていた――
「……おいで――シャミー・ブルータス」