「シャミー・アイ~死のマリオネット~」-8- | BLACK-SKY

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ひとりごととか、小説だとか。

取るに足らない言葉たちの遊戯会。




シャミー・ブルータスは居間の白いソファに、母と並んで腰かけ、瞑想していた。


「肩と瞼の力を抜いて……そう。手は胸の前で組んで、それで自分の見たいものを思い浮かべて、精神統一するの」

「自分の思い浮かべたいもの……」


――無論、犯人だ。


するとそんなシャミーの心を見透かしたように母が優しく言った。


「初めは易しいものから始めるのよ。そうね、例えば……今日の晩御飯を当ててみて」

「うん……」



シャミーは目を瞑り、肩の力を抜き、手を腕の前で組んで、精神を今日の夕飯に統一させた。


――今日の晩御飯。今日の晩御飯、今日の晩御飯。


「そう、その調子……」どこか遠い暗闇から、母の声が聞こえてくる。

「統一出来たら、目をゆっくり開けて、水晶玉を見つめてご覧なさい」



目をゆっくり、ゆっくり開く。

暗闇の後に見たこの世界はあまりにも眩しくて怯みかけたが、それでも水晶玉を見据えた。


……すると刹那、水晶玉に何か、白く渦巻くものが見えた気がした。


「あっ……お母さん!何か見えた!」

「そう。まだ見えてる?」

「あー……ううん。すぐ消えた……」

「じゃあもう一度最初からね。何か見えたら、それからイメージが形作られるまで絶対に集中力が途切れないように。分かった、シャミー?」

「うん。じゃあ、もう一回――」







                    ***







自分が犯人だと知られてしまうのも、恐らく時間の問題だろう。そう少年は悟った。


それなら、結局はばれてしまうのならば、もう一回や二回、同じことだ。


自分が思いつく限り、あいつの一番嫌がることをしてやるのだ――



少年は机の引き出しを開け、鉛筆やボールペンを掻きわけ、奥からあるものを取り出した。


それを握り締め、そして刃がきちんと出るかを確認する。

刃は蛍光灯の光の下で、鈍く、狂気染みた光を放った。







少年が握り締めているのは、カッターナイフだった。


もはや少年には、正常な感覚は、まるで備わっていなかったのだ。







                    ***







幾度めかの精神統一のあと、シャミーはゆっくりと瞑っていた目を開いた。

水晶玉の輝く表面を見つめ、集中力を研ぎ澄ます。


次第に、水晶玉の中で、白い靄のようなものが渦巻き始めた。


そして――それは次第に何かを形作り始め、やがて色がさし、ついには――



「お母さん!今日の晩御飯は、ハンバーグとサラダ。そうでしょ?」

「ええ。……シャミー、これって凄いことなのよ!お母さんでさえ、最初は三日もかかったんだから!」

「それで……早速犯人を調べていいでしょ?」意気揚々とシャミーは言った。

すると母はやんわりと、

「ダメよ」と言った。


「どうして?もう私、一日だって待てないんだから!一刻も早く犯人を突き止めたいの。分かるでしょ?」

「分かるわ、でもね。占いにはかなりの集中力と体力が必要なの。明日になさい」

「でも私まだ大丈夫!」

「……顔が赤いわ。ダメよ」

「……」


落胆したシャミーの腰に、母が手を回した。そして母親らしい声色で言う。

「シャミー、占いだけに頼らないで自分の頭脳で突き止める、っていう方法もあるのよ」

「……」


――それが出来ていれば初めから苦労はしていない。それに、それが占い師の言う言葉だろうか。



「……じゃあ、この水晶はシャミーが持っていっていいから。私は別のがあるから、これはシャミーにあげるわ」

長い沈黙のあとで母が告げた。

シャミーは母が行ったあとも、やり切れない思いで水晶玉を唯見つめていた。