ヒッグスは妖薬士の資格を手にするべく、多くの時間を費やして人魚薬の勉強に励んだ。
人魚薬同様、ヒッグスは癒しの呪文があまり得意ではなかった。特に手こずったのは”傷塞ぎ呪文”。小さな傷な
らば癒してしまえる術だ。・・・・・・なのだが、ヒッグスはこれを苦手としていた。
「さっ、練習して!殺し合ってた満月イモリを助けて来たの。呪文は”ガガデアーゼ”よ!」
シェリーは箱を差し出した。中には、傷つき弱った、淡い黄色の体をして満月イモリが入っていた。
「ガガデアーゼ!」
ヒッグスが唱えると、満月イモリの潰れた右目が微かにピクピクと動いた。
「ガガデアーゼ!」
イモリの口の端の傷が微かに癒えた。ヒッグスは微笑んだ。しかしシェリーは首を横に振った。
「まだまだ特訓が必要ね」
傷塞ぎ呪文はかなり難しく、体力を早く消耗するため、特訓は日を空けて行われた。そのためヒッグスが満月イ
モリを正常な姿に戻してあげられたのは、四日後の事だった。
一ヶ月も経つ頃には、ヒッグスの傷塞ぎ呪文もかなり良くなった。その頃には夏休みも終わり、ヒッグスは学校と
人魚薬の勉強に追われ、少なからず混乱していた。
ヒッグスは――まずいことに――宿題のレポートに、虫の生態についてではなく、妖毒虫たちの生態について、し
かも長々と書きあげてしまい、先生に説教を食らう羽目になった。
「ヒッグス!先生は、お前のメルヘンなホラ話に付き合ってる暇などないんだ!分からないならこんなでっち上げ
なんかしないで、素直に分かりませんでした、と言えばいいものを!もっと真面目にやれ、いいな!」
これはさすがにまずいと思った。疲労のせいか、本格的に頭がやられてきているようだ。
それに・・・・・・つい昨日だって、ヘマをやらかしたばかりだ。――友達がテントウ虫を見つけ、「お、テントウ虫だ」
と言った時、ヒッグスは「違うだろ、毒ガガデアーゼ虫だろ」と言ってしまい、思い切り笑われたのだった。
笑われて当たり前だ・・・・・・。人間界と二世界をごた混ぜにしてしまうなんて、僕はなんて馬鹿なんだろう?
人間界では馬鹿にされ、嘘付きだとレッテルと貼られていたものの、妖精界では憧れの眼差しがヒッグスを待っ
ていた。
どうやらヒッグスのファンの集団がいるらしく、いつもキャーキャー騒いで、サインをねだろうか、と小声で、しかも
本気で相談しているのだ。・・・・・・しかもかなり顔のいい集団で、ヒッグスはわざと「テームス」を使わず、そこを
素通りした。
リオネルは、ニヶ月という月日が経っても治らないままだった。しかし、少しは語術を取り戻しているようだ。
ただ、”怖い紫のもの”については、未だ口を閉ざしたままだった。
ニヶ月もの間に季節は秋めいて、ヒッグスの勉強は順調に進んだ。今や二週間後に試験を控え、シェリーの厳し
い特訓に懸命に耐えていた。シェリーは厳しくなり、出来ない呪文や分からない仕組みが出て来ると、分かるま
で帰さないと脅すようにもなった。
ヒッグスはそれに文句も弱音も吐かず、それを一つずつクリアしていった。――妖薬士になるために。・・・・・・約
束を果たすために。