リオネルの奇行が頭から離れぬまま、ヒッグスは玉座の間へと飛び込んだ。ウィーネは優雅に振り返り、険しい顔のヒッグスを見た。
「ヒッグス?何があったのですか?」
ヒッグスは事細かに一部始終を話して聞かせた。話が「紫の怖いもの」に及ぶと、ウィーネは不可解だというように眉をひそめた。
「紫の怖いもの・・・・・・?」
その時、両開きの扉がバーンと音を立てて開き、みずぼらしい身なりをした中年の男が三人で、ずかずかと部屋に入り込んできた。一人の男は、痩せた女性を突きとばして、玉座の前に倒れさせた。女性はキャッと低く叫び、男達に怯えながら立ち上がった。
「ウィーネ様・・・・・この人たち、狼人間です!魔界から来て・・・・・・そして・・・・・・」女性はボロボロと涙をこぼし、ウィーネに訴えかけるように話している。
「うっせぇんだよ、姉ちゃん!あんたは黙ってろや!」のっぽの男が唾を撒き散らして怒鳴った。
「ゼスタ、押さえろ!話す前に追い出されちゃたまったもんじゃねぇ。フィンガ、何してんだ!お前が話すんだよ!」太った男が言った。
「いやぁ、モーゼン、お前だと思うぜ」眼鏡をした、白髪の多い男が言った。
「お黙りなさい」ウィーネの厳しい声に、狼男達は僅かながら怯んだ。
「何が起こったか、詳しく話して聞かせて下さいますか?」間を置いて、威厳のある声でウィーネが言った。
「話すともさ!俺らぁな、祭りがあったもんでよ、この姉ちゃんに髪をきちんとしてもらおうったぁ思った訳よ。ところがこいつめ、カール呪文のかわりによ、締め付け呪文を使いやがるでねぇの!そんで俺らぁな、こいつの親分に責任取らせようかと思った。それがまぁ、女神様でねぇの!辞めてもらわねぇとなんねぇな?へへ・・・・・・」ゼスタが言った。
「違います!私、何も知りません!急に後ろから掴まれて、ここへ連れてこられたんです!ウィーネ様・・・・・・」
「ソフィー、ゼスタ、フィンガ、モーゼン、落ち着いて。私は何の証拠もなしに、貴方達のどちらかが正しいなんて決める事は出来ないのです。幾ら私に仕える者だからといって、疑わないというのは間違いです。そのいい例が一人いましたっけ・・・・・・ゼスタ達、証拠が何もないのでは、ソフィーを辞めさせる事も、私を辞めさせる事も出来ませんよ。」
「証拠ならあるとも!この腕についた締め痕がそうだ!」フィンガが吠えた。
「なるほど?私には、毒ツルクサに絡まれた痕に見えますがね。締めつけ呪文は確か、痕が残らないはずでは・・・・・・」ウィーネは余裕たっぷりに微笑んだ。
フィンガは赤ら顔を更に赤らめて、バツが悪そうに二言三言、何か呟いていた。
「とにかく決定的な証拠が無い限り、私はこの職を捨てはしません。私がこの職に就くのを望む者は、幾らでもいますから。」ウィーネはちらりとヒッグスを見た。
男たちはたじたじと「覚えてろ!」と言いながら去っていった。ウィーネはそんな男達の後ろ姿を呆れ顔で見送った。
一分程の沈黙の後、ウィーネは呟いた。
「どうやら私がここに座っていられるのも・・・・・・長くはないかもしれませんね」
「えっ・・・・・・?」
ヒッグスは強い衝撃を受けた。そんな、まさかあんなでっち上げのめちゃくちゃな事件一つで退職なんかさせられる訳がない。・・・・・・しかしウィーネが冗談を言うはずがない。ウィーネは確信しているのだ・・・・・・。
「そんな!そんなこと・・・・・・」
「そんなことない、と言いたいのでしょう?分かっています・・・・・・」
ウィーネの寂しげな口調に押され、ヒッグスは何も言う事が出来なかった。