「DESPAIR・TOAST」ー第二章ー | BLACK-SKY

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ひとりごととか、小説だとか。

取るに足らない言葉たちの遊戯会。

目の眩むような光の中に足を踏み入れると、爽やかな冷たい風が頬を打ちつけるのを感じた。

次の瞬間、目の前に懐かしい風景が広がった。ヒッグスは、小高くなった丘の上に一人立っていた。

前方には色鮮やかな花々が咲き、甘く芳しい香りでヒッグスを誘った。そして・・・・・・遥か遠くは、色褪せた美しい城が見える。ヒッグスが二年前、何度となく出入りしたあの城だ。

しかし、あんなに親切に妖術や剣術を教えてくれたレームが、もうあの場所には居ないと思うと、悲しかったし残念だった。ただ、金のためだったなんて・・・・・・。それじゃあ、恩を返せないじゃないか?

一方で、リオネルが新たにその職に就いた事が嬉しかった。雷雨の中を待っていてくれた優しいリオネルが側近に昇格したことが、そのリオネルが出世したのは僕のお陰だと言ってくれたことが、嬉しかった。

――リオネルは今、どうしているんだろう。そんな考えが、ふと頭に浮かんだ。

思いついたら即行動。ヒッグスは唱えた。

テームス!


着いたのは門の前だった。そういえば、きちんと正門から入ったことがないのでは、と思い、きちんと正門から入ってみようと思い立ったのだ。

二人の門衛は長い槍で門を閉ざし、ヒッグスを手で制止した。

「何者だ!ここは城であるぞ。名を名乗れ、小僧!」

ヒッグスは、優越感を味わってみたいと思い、真珠とメフェルの涙のネックレスを取り出して掲げた。二年前、感謝状授与式にて、全国民の目の前で女神直々に受け取った代物だ。

「ヒッグスです」

「し、失礼致しました!ヒッグス様、大きくなられたもので分かりませんでした・・・・・・。ヒッグス様、女神様が、貴方にお会いしたいと言われておりました。お一人で行かれますか?」

ヒッグスは頷き、門を通って進んでいった。――有名になるって、いいものだなぁ・・・・・・。もし人間界なんかなければ、ルイザにデートを申し込むぐらい簡単だっただろうに。何しろ僕は、人間界じゃ冴えないただの子供だ・・・・・・。



玉座には、思案顔をしたウィーネが座っていた。何ヵ月ぶりかに見たが、その美しさは健在だ。いつもの様に、豊かな波打つ金色の髪の上に、ゴールドのティアラを載せている。

「久しぶりです。」ヒッグスは軽くお辞儀をした。

「ヒッグス、貴方に会いたいと思っていたところです。丁度三日前の今頃辺りから――」

「三日前に、何かあったんですか?」

ウィーネは――もう既に姿勢はピンとなっていたが――姿勢をピンと正した。それから真剣な顔つきで話し始めた。

「リオネルがショック状態になり・・・・・・あまり口をきかなくなったのです」

その知らせは、何故かヒッグスを激しく動揺させた。急き込んで、聞く。

「何故ですか?」

「原因は未だ掴めていません。貴方が直接お見舞いに行くといいでしょう。リオネルは貴方の事を信頼していますから・・・・・・。リオネルは、病室に居ます。ダンバーズに案内をさせましょう。ダンバーズ!ヒッグスをリオネルのもとへ案内して。」

「はっ、かしこまりました、ウィーネ様。」

ダンバーズは、堂々とした体格の若い男だった。ヒッグスは、レームの言った事を思い出していた。――「きっと次は私のかわりに、リオネルかダンバーズが側近の職に就くことでしょう」・・・・・・レームの言っていた意味が分かった様な気がした。ダンバーズはキビキビとよく仕事をこなす。・・・・・・しかしやはり、リオネルは控えめだが、ダンバーズ以上によく従い、忠実だ。多分ウィーネは、その点を踏まえてリオネルを自らの側近に選んだのだろう。

そんなことを考えていると、ダンバーズは白い扉を開け、その中へ入っていった。ヒッグスも後に続いた。

とても広く清潔な部屋の中には、壁で仕切られた小部屋が幾つかあり、一つ一つにカーテンをかけてあった。かかっていない空っぽの部屋もあった。

「――そこです。会って来られるといいでしょう」ダンバーズは、右から二番目の小部屋を示した。

「それと、私は戻らせて頂きます」ダンバーズは深くお辞儀をし、去っていった。


示された小部屋へ近付くと、灰色の顎髭を生やしている太った医者に声をかけられた。

「リオネルさんの面会かい?」

「はい。具合はどうですか?」

「良くはないな・・・・・・。まっ、とにかく会ってあげなさい。一人じゃ寂しいだろうしね」

「はい。――リオネル、入るよ」ヒッグスはゆっくりカーテンを開けた。

リオネルはベッドに横たわっていた。――ヒッグスはリオネルがワンピースを着ているのに慣れていたので、黒縞のパジャマを着ていることに多少驚いた。――開かれたその目は何も見てはいず、ただ虚ろに宙を見つめていた。リオネルは、しきりに何か呟いていた。「紫が」とか「あの人は」とかいう単語が聞こえてくる。

「あの・・・・・・リオネル?何があったの?」

その言葉で、リオネルはハッと我に返ったようだった。リオネルは目を丸くし、瞬きをしてからヒッグスをまじまじと見た。

「・・・・・・ヒッグス様・・・・・・?」

「ん・・・・・・うん。リオネル、『紫』って何?」ヒッグスはほんの好奇心で聞いた。

――リオネルの目に何かが走った。一瞬にしてリオネルは蒼白になり、肩を大きく震わせ始めた。

「ああ・・・・・・ああ・・・・・・!お、恐ろしい・・・・・・怖い・・・・・・ああ・・・・・・」リオネルは上半身を起こし、頭を抱えた。

「リオネル!どうしたの!?リオネル!」

「嫌だ、嫌だ、嫌だ!こ、怖い・・・・・・紫の・・・・・・」

「落ち着いて、リオネル!一体紫の何が怖いの?」

「わ、わ、私が――紫の・・・・・・?・・・・・・ああーーーーーっ!!ああああああーーーーーっっ!!」リオネルは叫び、枕を両手で掴んで壁をバンバン叩いた。

すぐに医者が駆けつけて、ヒッグスと二人で何とか暴れるリオネルを取り押さえた。それでもヒッグスは、ショックを抑えきれずにいた。何故リオネルは、こんなにも変わり果ててしまったんだろう?

「こ、こわ、こわい・・・・・・怖いぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

「ヒッグス君、早く出て行きなさい!私は大丈夫だから!」

「嫌だっ、いやぁぁぁぁぁ!!行ったら・・・・・紫がぁぁぁ!!紫がーーーーあぁぁ!!」絶叫するリオネルを放って行くことは胸が痛んだが、ヒッグスは急いで玉座へ向かった。


今見たことを、知らせなければ・・・・・・。その思いで一杯だった。