ヒマワリは背比べを始め、セミの騒がしく鳴き始める、蒸し暑く太陽に輝く季節が訪れた。
あの輝かしい秋の終わりの日から実に二年以上の月日が流れ、ヒッグスは十四歳の少年へと成長を遂げていた。――気難しい年頃という訳だ――
ヒッグスには、密かに憧れている少女がいた。近所に住んでいる、二つ年上の、ルイザという美人の少女。オレンジ色の髪の毛を元気に揺らし、黄色の太いカチューシャを付け、膝丈のパステルカラーのワンピースをいつも着ている。ルイザは元気で、冗談や悪戯を好むタイプの少女だった。リサは、兄がこの美人の少女に憧れていることを、ほんの”勘”というもので悟ってしまっていた。
「ママには秘密にしてあげるからね。ね、ルイザお姉ちゃんて綺麗だよね?」
「うーん・・・・・・あのな、九歳の女の子に分かるはずないだろ?複雑なんだよ、人魚薬の成分と同じでさ。僕に言わせりゃ、女の子というものは、”カメレオン変身薬”みたいにややこしい・・・・・・。」ヒッグスの言葉づかいは、友達の影響で多少変わってきていた。
「九歳でも、リサは女の子だもん。分かるよぉ。リサは、男の子ってヌメヌメ草の成分くらいつまんないと思う。下品だし・・・・・・。お兄ちゃんは、わくわくするけどね」リサはヒッグスににっこり笑いかけた。ヒッグスも笑い返した。
ヒッグスはこの二年というもの、時々妖精界や人魚界をリサと共に訪れては、呪文を教わって帰った。
新しく覚えたのは、”コシェアラマーユ”水すり替え呪文。水と、水と替えたいものとを取り替えることが出来る。”ターテル”は、雷を呼び寄せる精霊呪文。”ウマンダ”は氷の柱を形作る術だ。
リサはリオネルから、色々と日常呪文を教わっていた。その一つが”イジェスチー”、髪の毛カール呪文だ。それとリサが特に気に入って多用している呪文は”ピエリージェア”、髪染め呪文。
リサはこれらの呪文をまだ覚えたばかりで、朝食卓につくと、向かいの椅子に、ぐるぐるにカールしたショッキングピンクの髪を生やしたリサが座って、せっせとトーストにジャムを塗っていたりする。リサによると、「張り切って失敗しすぎた」のだそうだ。
ヒッグスはこの呪文がかなり難しいことが分かったが、何とかマスターした。今は、緑や青の頭でリサを驚かせることが、面白くてたまらない。
「ねぇ、いっそのこと、パステルピンクとか白がごた混ぜになった髪の毛にすれば?メロメロになるよ、あのひと。」”ピエリージェア”で染めた髪を元に戻していた時、リサがからかった。
「冗談が上手くなったね?」ヒッグスは皮肉で返し、部屋に向かった。
窓から陽の光が射し込み、光の筋が照らしていたのは――偶然か神の悪戯か――”メフェルの涙”のネックレスだった。
――そういえば、ここ何ヵ月か行っていない・・・・・・。
ヒッグスは引き出しをまさぐり、古いキャラメルの空き箱を探り当てた。箱を開けると、手の平に目当てのものが滑り込んだ――淡く神秘的な光を放つ、艶のある、白く滑らかな真珠。
「光のアーチよ、現れよ!」
真珠から光がオーロラの如く放たれ、間もなく光はアーチを形造った。
ヒッグスは、その中をくぐっていった。