「THUNDER・BLAST」-最終章ー | BLACK-SKY

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ひとりごととか、小説だとか。

取るに足らない言葉たちの遊戯会。

眩い光に目が眩み、ヒッグスはしばらく自分がどこへ行き着いたのか、把握出来ないでいた。

――ウィーネの声が聞こえて初めて、ヒッグスの頭がようやく正常に働き始めた。・・・・・・自分とリオネルは、怪物――ジェローム――を倒して、無事城に辿り着いたのだ。女神の石も、ちゃんとポケットに収まって。


瞑っていた目を開けると、目の前にあるもの全てがぼやけて見えた。次第に焦点が合い始めて、玉座が見えた。そこに座る、心配顔のウィーネが見えた。その横に座る、全身水の泡に包まれたルーシアが見えた。リオネルはぐしょ濡れで、椅子に座ってタオルを頭から被りながら震えていた。その横にシェリーが座っていて、ぐしょ濡れのリオネルを”ドレバースアン”で乾かしていた。

「ヒッグス、座りなさい」

ウィーネが言った。ヒッグスはその通りにした。


「何があったのかを、詳しく話して聞かせてくれませんか?」

「はい――」

ヒッグスは、怪物の正体、”悪魔の微笑み”のこと、ジェロームとレームのこと、二人の両親のこと、ジェロームと戦ったことなどを、時間をかけて詳しく話した。

話し終えた頃にはもう、朝日が顔を覗かせて、空を染め始めていた。


「なるほど、レームは逃亡したのですね・・・・・・。リオネル。代わりにレームの席に就きませんか?」ウィーネは、真剣そのものの表情でたずねた。

リオネルは明らかに動揺していた。

「わ・・・・・・私、まだ十八歳で・・・・・・。」

「十八歳ということで、何か問題でも?」ウィーネが片方の繭を吊りあげて言った。

「よ、妖精界と人魚界の成人は二十一歳で、確か・・・・・・成人していないと、女神様の側近なんていう、重要な役職には就けないのでは・・・・・・?」鼻をすすりながらリオネルは言った。

「ええ。でも貴方は十八歳とは思えない程に、賢く忠実です。このひどい雷雨の中をずっと待っていたと、ヒッグスは言いました。――古い取り決めごと如きが、私を縛りつけることは出来ませんよ。私が必要とするのは、賢く忠実な若者です。――ヒッグスだって、十二歳という年齢にして、ずっと年上の妖戦士を倒したのですよ。成人など、問題ではありません。そうでしょう?リオネル」ウィーネは微笑んだ。

「は、はい・・・・・・ありがとうございます!」リオネルのそばかすだらけの顔が、パッと輝いた。


「あ、そうだ、これ。女神の石です。僕、これに助けられました。」

「メフェル様が生きていたなら、きっとお喜びになられることでしょう。ああ、本当はこれを譲りたいのですが――ルーシア、そんな目で見なくとも分かっていますよ!――二つの国の国宝として、いつまでも大切に致しましょう。・・・・・・ヒッグス、明日感謝状授与式を行いますので、ふさわしい服装で訪れるよう・・・・・。そうそう、コアンナがこう言っていましたわ。『黒雲は、勇気と知恵ある子供によって消され、次に訪れるものは、輝く太陽と星である』ですって。御苦労様でした、我が友ヒッグス。」

ウィーネはヒッグスに、柔らかい微笑みを与えた。ルーシアは、尊敬したようにヒッグスを見つめていたし、リオネルはヒッグスに心からの感謝の眼差しを与えてくれた。とても気持ちのいいものだった。



城の外では小鳥が楽しげに祝福の歌を歌い、暖かい太陽の日差しが降り注いだ。そよ風は気持ちよく、何もかもが・・・・・・地を這う虫さえも、今日というこの日を祝福しているように思えた。

平和で輝かしい朝だった。今までで一番、幸せな朝だった。



感謝状授与式は、予定通り翌日に、盛大に行われた。

小さな妖戦士の姿をひと目見ようと、小さな救世主をひと目見ようと、国民のほとんどが、城の中庭に集まっていた。


大勢の妖精と人魚が集う前で、ヒッグスはウィーネから感謝状を贈られ、ルーシアからは、海底の珊瑚を加工して作った石と、メフェルの涙一つをつなげて作ったネックレスを贈られた。


ウィーネは、全国民に何かお言葉を、という国民の野次に答えた。まるで決めてきたかのように、すらすらとこう喋った。

「皆様、皆様の足や鰭がこの地についていられるのは、皆様の両の目が今私を見ていられるのは、小さき妖戦士であり小さき勇者、我が友ヒッグスのお陰です。今回の件で私は、非常に多くの事柄を学びました。

人の思いやり、忠誠心、勇気などです――・・・・・・複雑なストーリーは怒りを生み、優しさを生み、嘘を作り出し、最終的に残るものは”謎”であることが多いのです。謎はいつでも無限に生まれ、複雑に絡み合い、噂話や陰口が飛び交います。しかし、人々には謎や疑問に思えることでも、必ず、この世に一人は、真実を知る者がいるでしょう。皆様、覚えておいて下さい。謎はいつでも無限に生まれるものですが、隠された真実は一つしかないということを。信じ難いものでさえも、それが真実ならば仕方ないと、怒りや困りを見せず、寛容に受け入れて下さい。」

ウィーネの言葉に歓声が湧き、幾つかの野次が飛んだ。




真実は一つしかない・・・・・・。そしてそれがどんなものでも、真実は受け入れること。

怒りと優しさの末には、謎しか残らない訳ではないんだ。新たな優しさが生まれることもある・・・・・・。




ヒッグスはウィーネを見て、そんなことを考えていた。


風が肌に心地よい、秋の終わりの日だった。





                  




                                         「THUNDER・BLAST」ーend-