「THUNDER・BLAST」-第十章ー | BLACK-SKY

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ひとりごととか、小説だとか。

取るに足らない言葉たちの遊戯会。

それからニ週間の間中、ヒッグスは呪文の復習と剣の練習を欠かさなかった。


あのあと、ヒッグスはレームに頼み、水中脱出呪文”トーケル”を教えてもらった。

水を張ったブリキ缶に水を突っ込み、頭の中で強く”トーケル・・・・・・トーケル・・・・・・”と強く念じる。すると、ヒッグスの顔は水の中にありながら、ヒッグスの肺は新鮮な空気で満たされた。

「上出来です!ただし、水中で他の呪文を唱えても上手くいきませんので、覚えておいて下さい。成功するのは、水中脱出呪文のみですから。」



ドアが勢いよく開いた。振り向くと、ウィーネの城に仕えるメイドが、息を切らして飛び込んでくるところだった。ヒッグスも度々城で見かける、成人に満たない、若い、そばかすだらけのメイドだ。

「リオネル、そんなに慌ててどうかしましたか?」

「れ、レーム様、ヒッグス様。コアンナ様が、黒雲についての新しい予言を発表致しました。あの、すぐ出られますでしょうか?」

「今行くわ。ドレバースアン!チェスタ!あー・・・・・・失敗しましたね・・・・・・」

レームはヒッグスの濡れた顔を、熱々の炎で乾かした。


ヒッグスは小走りのリオネルとレームのあとをついていき、玉座がある部屋の隣の小部屋に入り、椅子に腰かけた。既にウィーネとコアンナも座っていた。

「これから発表して下さる所です。コアンナ、初めてよろしい。」

コアンナは小刻みに震えていた。太い指の先を組み合わせ、大きく息を吸い、今まで閉じていた小さな目を大きく見開いた。その大袈裟な仕草にヒッグスは思わず噴き出しそうになったが、必死の思いで堪えた。

「黒雲は、強い電気を帯び、真っ直ぐ・・・・・・真っ直ぐこの国に近付いてきている・・・・・・。不運はもうじき突風に乗り、二つの国に舞い降りるであろう。・・・・・・黒雲が全てを包みし時には、未だかつてない未知と驚異の力によって国々は支配されるやも知れぬ。・・・・・・私が水晶玉で見、予知夢に見た予言の全てがこれです。」

「コアンナ、どうもありがとうございます。貴方は実に良く二世界の為に尽くしてくれますね。ヒッグス、貴方もです。怪物を倒し、黒雲を消しさることが出来れば、この国をメフェル様が治めるようになって以来初めての眼差しがこの国に向けられることでしょう。」



その日の夜中、ヒッグスは不思議な夢を見た。ウィーネが玉座に座っていて、その傍らにリオネルと、もう一人ヒッグスの知らないメイドがいた。ウィーネは口を開いた。

「ヒッグス、ヒッグス。今すぐ私の国へ。レームが・・・・・・。」

――そこで言葉が途切れた。


ヒッグスが目を覚ますと、光のアーチは枕元に既に現れていて、アーチをくぐると目の前に玉座が現れ、ウィーネが腰かけていた。

「ヒッグス!レームが、怪物にさらわれたのです!」

「えっ、レームが・・・・・・?」

「はい。・・・・・・怪物は、空き屋敷に入って行ったそうです。それに、コアンナの予言だと・・・・・・黒雲は、間近に迫っている・・・・・・と。」

「・・・・・・僕、行きます」

ウィーネは微笑んだ。

「ありがあとう、心から感謝致します。では、リオネルに案内させましょう・・・・・・これを持って行きなさい。」

ウィーネは、丁度手の平に乗るサイズの、大きいゴツゴツした石を差し出した。

「これは・・・・・・」

「これは、女神の石。メフェル様の魂と、幸運が宿っていると言われています。妖精界、人魚界の宝です」

「でも、そんな大切なものを・・・・・・」ヒッグスは躊躇した。

「構いません。メフェル様の魂が失われても、この国が助かるのなら・・・・・・メフェル様は喜んで魂を差し出すでしょう。この二つの国が滅びてしまっては、メフェル様がこの世に存在する意味はもはや無くなります。この世に必要なのは過去の重要人物ではなく、勇気と能力ある若者なのです。」

「・・・・・・」

ヒッグスは心の中で葛藤を繰り返していた。

確かにウィーネの言うことは一理ある・・・・・・


――しかし、自分に何が出来る?こんな子供に何が出来る?


たかが妖戦士の試験に合格しただけで勝てるというものではない。


だって――自分より賢い大人なんて、この世に腐るほどいる。

そういう大人がやればいいじゃないか?


第一賢い大人に出来なくて僕に出来るものなんて、ある訳が・・・・・・


「命令です」

ウィーネが初めて下した”命令”に、ヒッグスの心は揺らいだ。そして、その初めて聞く力強い声に圧倒され、結局自分は従うしかないのだと悟った。

「これを持って、無事に帰ってきて下さい。怪物を倒し、レームを救うのです。」



「・・・・・・はい。」

「・・・・・・リオネル、若き勇者を連れて行きなさい。」

「はい、ウィーネ様。ヒッグス様、つかまって下さい。テームス!



空には灰色の雲や、文字通り黒雲が立ち込め、時折稲妻が夜空に走った。

――そして、青い稲妻に照らされ、今にも崩れそうな屋敷のシルエットが浮かび上がった。


「ヒッグス様、どうかご無事で・・・・・・。レーム様と、女神の石と、怪物の亡き骸を持ちかえって下さいませ。私は雷が鳴り止やなくとも、ずっとお待ち致します。ヒッグス様がご無事でここに戻って来られるよう、ここで祈っています・・・・・・。」

「ありがとう。・・・・・・すぐ戻るから!危なくなったら、すぐに帰っていいから!」

「いいえ、私は待っています。優しい心遣い、有難うございます。」

ヒッグスはリオネルに微笑んで見せた。



ヒッグスは不安を胸に、ポケットにしっかりと女神の石をしまい込み、屋敷へと一歩足を踏み出した――