人魚薬についての筆記試験は、当然人魚界で行われた。内容は、薬草の見分け方や、人魚薬やその材料に関する問題等が主だった。
薬草の名はシェリーが教えてくれたので大体覚えていたが、一つ全く知らないものがあった。
ヒッグスが手こずったのは、薬を作る際のコツや注意を書きこむ、というものだった。ヒッグスは実技は得意だが、文章力はまだまだ子供なので、制限時間のほとんどをこの問題に費やした。
剣と妖術での実技試験は妖精界で行われた。戦う相手は、ハーバートという名の十五歳の青年だった。
「握手!」試験官が声を張り上げた。試験官は銀縁眼鏡をかけている、頭部の禿げたお爺さんだった。
「どうも」ハーバートはにこやかに近付いてきた。ヒッグスはほっとして、手を差し出した。
しかし手を握り返す力があまりに強く、ヒッグスは驚いた。驚いて見上げると、ハーバートの顔からは笑いが消え、ヒッグスを睨みつけていた。
「お前のためにわざわざ来てやったんだから、少しは楽しませろよ・・・・・・チビ」ハーバートは耳元で囁き、手を離すと微笑んだ。試験官の前では礼儀正しくしているが、ヒッグスの前ではとことん嫌な奴だ。
「さ、構え――!」
試験官が言った。ヒッグスもハーバートも、剣を握りしめて互いを睨み合った。
「三、ニ、一っ――始め!」試験官が叫んだ。
「エウソシャル・ミーン!」開始と同時に二人は叫んだ。
――大丈夫・・・・・・。自分にそう言い聞かせた。
剣は魔法がかかっていて、絶対に切れない。大丈夫だ。絶対に安全だ・・・・・・。
「ヒナーエ!はははははっ!!」
呪文で足がもつれ、苦戦していると、ハーバートに剣を叩きつけられた。
――剣を、心臓か喉に突きつけられたら負け・・・・・・。
「あー・・・・・・クブーラス!ヒナーエ!」
辺りに白い霧が立ち込め、慌てるハーバートの足音が聞こえた。
「ホゼアール!」
剣が飛ぶブーンという音が聞こえたが、霧で見えない。目を凝らしていると、剣がヒッグスの腕を直撃した。痛さに呻き、霧を消そうとする。
「チェスタ!」
ところが“チェスタ”の呪文が強すぎて、二人にかけられた”ヒナーエ”も解けた。
「ふっ、このバカ・・・・・・ゴッディア!」
ハーバートの泡呪文は、ヒッグスの体をみるみるうちに包んでいった。全身を水に包まれ、ヒッグスの肺は悲鳴をあげた。苦しくて、ヒッグスはもがいた。
「・・・・・・」“チェスタ”を唱えようとしても口から泡がゴボゴボと出て、水が口に入って来るだけだった・・・・・・
「こらっ、ハーバート!その呪文は危険だ!チェスタ!」試験官は明らかに憤慨していた。ハーバートは俯いていてその表情は見えなかったが、多分ほくそ笑んでいるに違いない。
「妖戦士の認定状を破られたくなければ言うことを聞け!あの呪文はだめなんだ!この呪文を破るためには、妖戦士と認められてからの上級呪文を使わないといけないんだ!・・・・・・よって、ヒッグスの勝ち!」
「えっ?・・・・・・それって・・・・・・?」
「いいや、こいつがズルをしたからこいつが負けたのではない。フェアに試合を行ったヒッグスの勝ちだ。実践にはズルも必要かもしれんが、その心構えが必要なわけで・・・・・・。こら、ハーバート!腹いせにヒッグスを呪おうとするなんて!えーい、こっちへ来い!!ヒッグス、帰ってよし!試験の結果は三日後!」
三日後、城へ向かうと、レームとシェリーが待ち構えていた。
「結果・・・・・・は?」ヒッグスが聞いた。
シェリーが、手紙をすっとヒッグスに差しだした。その表情からは何も読みとれずヒッグスは不安になったが、手紙を開くとヒッグスの顔はパッと輝いた――
ヒッグス
貴殿は、妖戦士認定試験に見事合格致しました。おめでとうございます。
実技試験につきましては、無礼な少年をお送りしたことを心よりお詫び致します。
妖戦士認定試験をお受け下さり、誠に有難うございました。貴殿が妖戦士という名のもとにおいて、その力を世の為に使って下さることを、心よりお祈り致しております。
妖戦士認定試験所 R.K,ハンク