「THUNDER・BLAST」-第七章ー | BLACK-SKY

BLACK-SKY

ひとりごととか、小説だとか。

取るに足らない言葉たちの遊戯会。

次の日、ヒッグスは珍しく早起きすることが出来たので、ヒッグスはいつもより少し早い時間から人魚界へ出掛けることにした。



ルーシアの側近のシェリーは何かを唱えた。

ゴッディア!うん、心地いい・・・・・・。さあ、こっち。おいで・・・・・・」

見たところ、シェリーに何ら変化は無いように思われた。しかしその呪文の効果が何なのかは、部屋に足を踏み入れた瞬間に分かった。

その部屋は、水に覆われてはいなかった。新鮮で涼しげな空気が部屋一杯に満たされていて、生き返ったようだった。と、ヒッグスはシェリーの姿を見てぎょっとした。シェリーは、大きなシャボン玉に包まれているかのような奇妙な姿をしていた。しかしそれは、シャボンの膜ではなく、水であることが分かった。

「”ゴッディア”、神の呪文。」シェリーはうっとりと言った。

「”フレアージ”を使う方がいいんじゃないですか?その・・・・・・見た目とか」

「足と肺を作る呪文、あれは結構複雑で、かなり能力を使うの。私には到底無理ね。人魚は妖精に比べて、ずっと体力も妖力もないの・・・・・・。泳ぐ力は遥かに上だけど。さ、材料の名前を覚えてね。」


テーブルの上には、ヌメッとした濃い緑の海草、ワカメのような萎びた草、びっちりオレンジの毛が生えた木の枝のようなものなどが載っていた。

「これは、見たまんま・・・・・・そう、ヌメヌメ草。主に、鱗にすりこんで艶を増すためのものね。まぁ妖精だかには不必要に思えるかもしれないけど、これはゴッド・ウォーターの材料の一つになるの。何故ならこの草には、稀なる妖力が含まれているから。」

「稀なる妖力?」

「そ。この草は、人魚の寝床に生えるのよ。人魚はね、眠ってる間、その豊かな表現力を生かして、ストレスを消すために良い夢を見るのね。つまりね、ヌメヌメ草にはそのまんま、豊かな表現力を増す力と、イライラを和らげる効果があるわけ。分かる?・・・・・・で、この人間界で言うワカメみたいなのはね、剣草よ。これを水に入れて、その水で剣を磨くとピカピカになる。知っておくと意外と役に立つよ。そしてこれ・・・・・・オレンジの毛が生えてるヤツ。これは、滅多に手に入らないの。何故ならこれは、深海に棲むマーメイド・バードの足だから。マーメイド・バードはたくさん生息してるけど、凄く素早くって捕まえにくいの。これは、ウィングフットとかって呼ばれるわね。ウィング・フットは、噛むとたちまち傷が癒える。これは、万能薬である”永遠の真珠”には必要不可欠で――永遠の真珠って言うのは、死んでさえなければ、どんな傷でも治せるという奇跡の治療薬なの。」

その時、部屋の外から慌ただしい足音が聞こえてきた。

「何事かしら?ついてきなさい、ヒッグス!」


シェリーのあとについて玉座へ向かうと、そこには思案顔のルーシアが座っていた。

「どうかしましたか、ルーシア様?」

「シェリー、例の黒雲のことでね」ルーシアが嫌味っぽい視線をヒッグスに向けた。まるで、こんなことが起こったのは全てヒッグスが悪い、とでも言うように。

「怪物が姿を現した。ついに尻尾を掴んだ、というわけだよ。」

「ついに正体が分かったのですか?」

「いや、よく聞け。怪物は、メフェルの像をほとんど壊したらしく、そこに爪の痕の様なものが残っていた。それに、新たな殺し・・・・・・。怪物は、人魚を十人も殺めた。しかしまあ、それが誤算となったわけだね。怪物は何故だか、回復薬作りに長けた者ばっかを襲い、永遠の真珠を、この私の城から盗んで行った。しかしね、物陰に隠れて生き延びた者がいてね。怪物の様子を語ってくれたってわけさ。それに基づいて、剣、鎧、武器や盾等を作ろうと思うんだよ。」

「是非、怪物の姿をお教え下さいませ」

「分かった。――怪物は、毛むくじゃらの頭に太い角を二本生やしていて、腹と背中は硬い鱗に覆われているらしい。それに、鋭い牙を持っていたといった。あと、三メートルほどもある、とか言ってたっけね」

「三メートル!」

「随分と厄介なもんだ。対策を考えるのがどれだけ骨の折れる仕事か・・・・・・まあ、我が友ウィーネとレームは賢いことだし、何か良い案を出してくれることと思うよ。はっきり言って、私はシェリーの頭脳には期待しない。私がお前に期待しているのは、薬を煎じることと、私の世話のみさ。それと、ヒッグス。私はお前の持つ子供ならではの思考能力を、実に素晴らしい代物と考えるね。子供は常に常識外れの発言をするものだが、時にはその途方もないアイディアが役に立つこともある。どんどん常識外れのアイディアを出しておくれよ。」

ヒッグスは、何だか馬鹿にされているみたいで腹が立った。ルーシアが何を言っているのか、全く訳が分からなかったのだ。