「THUNDER・BLAST」-第六章ー | BLACK-SKY

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ひとりごととか、小説だとか。

取るに足らない言葉たちの遊戯会。

翌日、ヒッグスがリサと共に光のアーチをくぐると、そこにはレームがいた。

しかしレームはいつもの白い服ではなく、黒いワンピースを着ていた。

「どうして・・・・・・?」

「目立たぬように、というのもありますが・・・・・・喪に服しているのです。それと、あまり外をうろうろしないよう、迎えに来ました。詳しい事については、城でウィーネ様がお話下さいます。テームス!



城へ着くと、やはりウィーネも黒いドレスをまとって玉座に腰かけていた。しかし、黒を着ようと白を着ようと、ウィーネは変わらず美しかった。

「ヒッグス、私が黒いドレスを来ている訳を説明しましょう。どうやら・・・・・・黒雲が近づき始めたみたいなのです。」

レームは一歩後ろへ下がり、話を待った。


「ここ妖精界、人魚界、隣の魔界にて、大量死です。」

「・・・・・・大量死?」

「ええ、それも、殺人です。とてもむごいものです・・・・・・。」ウィーネは手を組み合わせ、どこか遠い場所をみつめているような感じだった。

「魔界では、吸血鬼が三十人、胸が血まみれで発見されました。それに、牙が折られていました」

リサは怯えて、兄にしがみついた。

「人魚界では、体の一部を切り取られた死体が、ざっと四十人。」

「体の一部を、切り取られ・・・・・・?」ヒッグスは背筋が凍るのを覚えた。何でまたそんなことを・・・・・・?

「ええ。爪を剥がされているのが三十人、内臓をくり抜かれているのが十人です・・・・・・ああ、なんと恐ろしいんでしょう。」

「やっ、リサ怖い」リサは更に怯え、ますます兄にしがみついた。

「そして妖精界の死亡者は、四十人・・・・・・。」ウィーネは続けた。

「とても、酷いのです・・・・・・。く、く、首が、すっぱり切り取られていて・・・・・・!手首も、切り取ってあって、な、無いのです!」ウィーネはがっくりと項垂れた。


「罪もない者が殺されるということが、不公平でたまりません。私の目が行き届かぬ場所でそのようなことが起こるのが、悔しくてたまらないのです」

妖精界の女神であるウィーネは、重要な立場に立たされているだけに、責任を感じすぎている。自分を追い詰め過ぎている。そのことは、ヒッグスにもはっきりと分かった。

「なので、ヒッグス・・・・・・。あなたが妖戦士となり、一刻も早く黒雲を吹き飛ばしてしまうことを、期待してもよいですか?」

「・・・・・・はい。」

ウィーネは微笑んだ。――しかし、その目は笑ってはいなかった。



その日からヒッグスはあの部屋で、レームとリサと呪文の訓練をこれまでより厳しく行った。

ニ週間も経つ頃には、水を呼びよせ、空中に水で文字を描くことも出来るようになった。

風を呼ぶ呪文”アタナーレ”は、特に難しかった。強い風を呼ぶと、自分が、自分の呼んだ風に耐えられなくなるのだ。しかしその問題は、新しい「自身強化呪文」”エウソシャル・ミーン”を学ぶことで解決された。

「来週からは、鉄を呼びよせる呪文を学びます。」レームが言った。

「鉄?」厳しい訓練の後で、ヒッグスはハアハアと息を切らしていた。

「鉄パイプや、剣など。つまり、武器を奪われた場合などに有効な呪文を学ぶわけです。それが終わると、基本呪文は大体終わりです。――基本呪文を一通り習得したら、薬草の見分け方や、回復薬の煎じ方も教えることとしましょう。」



その二日後。空は晴れ渡り、白い雲が時折気ままに流れていた。

リサは連れてこなかった。というより、ついてこなかった。この天気を見過ごしてはおけないというのだ。

というわけでヒッグスは、一人で城へ向かい、いつものようにレームをたずねた。


しかしそこには先客がいた。

見つかる前に部屋を出て、後でまた来よう・・・・・・そう考えていた時、先客は振り返り、ヒッグスと目が合った。

鎧を着、腰に緑に光る短剣をさした、栗色の髪のかなりかっこいい男性だった。頬に大きな絆創膏を貼っていなかったなら、もっとかっこよく見えただろう。

男性はヒッグスに少し微笑みかけ、すぐまた話に戻った。

「・・・・・・それで、伝えたいことは以上だ。最後に念を押すが、このことはやはり女神に報告するべきだ――」

「ええ、分かったわ。ジェローム、お客さんが来てるの。この間話した、妖戦士見習いのヒッグスよ。」

「ほんとか?」

ジェロームと呼ばれた男は再度くるりと振り返り、ヒッグスを今度は頭から爪先まで眺めた。

ヒッグスは落ち付かずに、ちらりともう一度ジェロームを見た。すると、片方の目が義眼なのに気が付いた。義眼を見つめていると、ジェロームが視線に気づいてニヤッと笑った。

「この目かい?義眼なんて見るのは初めてだろう?僕は昔から、こうした面倒な事故に巻き込まれやすい質でね・・・・・・。今もそのことで、ここへ来たんだよ。」

ヒッグスが不可解だという表情でジェロームを見つめると、ジェロームは深刻そのものの表情になった。そして声を落として、迫力満点にこう言った。

「実はね・・・・・・怪物に襲われたんだよ。それで、右腕を噛みちぎられて、頬に傷を負ったというわけだ。」

確かにジェロームの右腕はなかった。

「ああ、平気、平気。人魚界に行って治してもらってくるよ。高度な技を持ってるからね、人魚っていうのは。でも水の中で薬を煮るというのは、僕にはよく分からないな・・・・・・。」


ジェロームはお喋りで、親しみやすい人だった。話を聞くと、なんとジェロームは、妖精界で有名な妖戦士だということが判明した。それにレームとジェロームは知り合いで、仲が良いらしい。ヒッグスは助言がもらえれば嬉しいと思い、予言のことを相談した。

「魔界の者と、妖精と人魚を襲ったのは、その怪物じゃないかと思うんです。怪物を倒すには、どんな妖術が良いと思いますか?」

「うーん・・・・・・何しろ、怪物の弱点がまるで分からないんだ。僕はうまく怪物を撒くことが出来たけど・・・・・・。しかし、これは上級者にも難しいのだが、”動物変身術”とかを使って、すばしっこい生き物になって、足元を狙えば・・・・・・。とにかく怪物は大きいんだ。敵を混乱させ――」

「ジェローム、もうそのくらいにして。訓練をさせる事は、ウィーネ様の望みなの。明日まで待たなくちゃダメ?」

「ああ・・・・・・悪かった。じゃあ、これから右腕を治してもらいに行くとするよ。じゃあ、さよなら。小さな見習い君!」


ジェロームが去り、ヒッグスとレームは鉄を呼ぶ術の訓練を行った。時間はかかったが、ヒッグスはかなり上手く出来た。

「なかなかいいですね。もう基本呪文は、大体マスターしましたね。・・・・・・次からは、ルーシア様とシェリーのもとで簡単な人魚薬について学びなさい。人魚は薬を煎じるのが得意です。――それと、近いうちに貴方の鎧と剣を用意した方がいいでしょう。こちらで準備しましょう。さあ、何か質問は?」

「どうして人魚は水の中で薬を煎じる事が出来るんですか?」

「多分、”フレアージ”を鍋の周りにかけておくのでしょうね。そうしないと、火を焚くことも出来ないと思います。しかし私は地上でしか薬を煎じたことがないので、明日や明後日、その目で学んできなさい。」

「はい。」

ヒッグスは、水の中で薬を煎じる姿を想像してみた・・・・・・。

しかし、人魚が地上に上がって薬を煎じれば、そっちの方が簡単なのではないか?

そんな疑問は、おやつの時間をリサが知らせに来たことで、頭の片隅へ押しやられた。