「今日は、簡単な呪文から練習したいと思います。火を呼び起こす呪文、”ドレバースアン”です。この呪文は、周りに乾いた木やマッチ、ライターなどがあるとより使いやすくなります。しかし問題は、呼び起こした火をどこに留めるかです。宙に浮かせて相手にぶつけるというのは難しいので、それはもっとあとにしましょう。」レームが言った。
ヒッグスとリサはレームに従って、枯れ枝に火をつける練習をした。ヒッグスはニ十分かけてコツをつかみ、三十分も経つ頃には枯れ枝をごうごうと燃やせるまでになった。リサは、枝から火花を飛び散らせる程度だった。
次の日は水を呼び起こす呪文、”レアニーダ”を学んだ。リサはこの呪文がとても上手で、海水を頭上にどしゃ降りに降らせてしまい、ヒッグスは”ドレバースアン”の復習をする羽目になった。
「いつになったら、火や水を操れるようになるの?」ヒッグスがたずねた。
「もっとあとのことです。呼び起こす呪文――精霊呪文というのですが――は、難しくもありませんが、空中に者を浮かせ、更に思い通りに操るとなると・・・・・・。
では明日は、少し早いのですが浮遊呪文を教えることにしましょう。こんなにも早く上達すると、ウィーネ様もルーシア様も、お喜びになられるでしょうね。」
次の日は、リサが母と買い物に出掛けたので、ヒッグスは一人で妖精界へ向かった。
光のアーチをくぐると、レームがヒッグスのことを待っていてくれた。
「”テームス”の呪文でついてきて下さい。私がワープしたあと、私の姿を思い浮かべれば着くはずです。テームス!」
レームが消えたすぐ後に、ヒッグスはレームの後を追ってワープした。
ヒッグスは、どこか広い小屋のような所に着いた。そこはだいぶ散らかっているように見えた。
幾つも椅子や机が並び、床には大きな石や小さな石、無造作に置かれた布や綿、重そうな太い木の枝、隅の方に置かれた壺には、水が入っているようだった。
何故、机があるのに床に物を散らかしておくのだろうと、ヒッグスは不思議に思った。
そう思った後で思い出した。昨日レームが言っていたことを。
「もしかして、浮遊術でこれを浮かばせる?」
「その通りです。浮遊術に必要な呪文は、”ワーピス”といいます。浮遊術の場合は、浮かせるものを指差すか、見つめるかしないといけません。始めから目的の分かっている、水を呼ぶ術、火を呼ぶ術とは違い、『何を』浮かばせるかということを、はっきりさせなくてはならないのです。さあ、まずは・・・・・・。」
レームは綿を小さくちぎって、振って見せた。
「この綿を、地面に置きます。眼の高さまで飛ばすことが出来たら、次は小さく切った布、その次は大きく切った布。布はヒラヒラするので大変ですよ。
さあ、綿を浮かばせて下さい。コツは、浮かべたい物をはっきりさせ、『浮かばせたい』と精神統一することです。」
ヒッグスは深呼吸して、綿をじっと見つめた。浮かべ、浮かべ・・・・・・と念じ、唱えた。
「ワーピス!」
布はふわふわと頼りなくジグザグに飛び、たちまちヒッグスの頭上高くに浮かんだ。
「上出来です!さあ、次は布です。注意しなければならないのは、布の両端がだらりと垂れ下がることです。魔法の絨毯の様に、ピーンと・・・・・・。」
「ワーピス!」
布は、端っこをつままれた様に浮いた。
「ワーピス!」
布は、目の高さまで浮いたが、ヒラヒラしていた。
「ワーピス!」
ついに布は、定規を当てたように真っ直ぐになった。
「素晴らしいです!」
この調子でヒッグスは、大きな布、小さな石、大きな石・・・・・・と、次々に浮かばせた。
水は液体なので、空中に固形として留めておくのが至難の業で、ついに水を浮かばせた時には、既に夕暮れになっていた。
「そろそろ帰るといいでしょう。」
「はい。」
ヒッグスは「テームス!」と唱え、満足して家へ帰った。
家に帰ると、新しい帽子というお土産があった。
リサにねだられて浮遊術の訓練のことを教えると、リサはいじけてしまった。
「ごめん!次は連れてってあげるから。」
「きっとだよ。約束して!」」