「THUNDER・BLAST」ー第三章ー | BLACK-SKY

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ひとりごととか、小説だとか。

取るに足らない言葉たちの遊戯会。

玉座に座っていたのは、波打つ金髪の上に輝くゴールドのティアラを載せ、柔らかな微笑みをたたえた美しい女性だった。この人が、ウィーネだかルーシアだかいう人だろう、とヒッグスは思った。


「新しき友、ヒッグス。」女性が、澄み渡った綺麗な声で言った。

「私は妖精界の女神、ウィーネといいます。貴方は、メフェルの涙を拾いましたね?

貴方が”涙”を拾った、ただそれだけのことに、妖精界と人魚界を救うであろう手がかりが隠されているのです」

ヒッグスは全く訳が分からなかった。ただ一つ分かったのは、このウィーネという人が女神(多分、女王に似たような役職に就いた人)なんだということ。


「我が国の有名な予言者、コアンナの予言を聞いて下さい。・・・・・・レーム、予言の内容を聞かせてあげなさい」

レームは、コアンナの予言とその意味を、ヒッグスに話して聞かせた。

レームが話し終えた時、ヒッグスはその意味に呆然とした。

「・・・・・・つまり、我々は貴方に、妖術と剣を武器とする最強の戦士、”妖戦士”への道を辿らせようというわけです。」

「妖術を、僕が学ぶということ?・・・・・・ですか?」

「物分かりのいい方だこと。ええ。そこで、空いている時間が少しでもあれば、光のアーチをくぐって城まで来て下さい。ワープの方法は、これからレームが教えてくれるでしょう。・・・・・・レーム、ヒッグスを、ルーシアのもとへ。」

「はい。ヒッグス、腕をつかんで――テームス!




奇妙な数秒間の後で、二人は輝く海を見下ろしていた。

青い波が心地よい音をたて、海岸に押し寄せた。月の淡い光が水面に反射して、神秘的な輝きを放っている。

「ヒッグス、水へ入って下さい。・・・・・・でもその前に、私が 海底でも呼吸の出来、濡れない呪文をかけましょう。フレアージ!

レームに従うままにして冷たい水へ足を踏み入れると、靴が濡れていないことに気が付いた。

そのままどんどん歩き、ついに頭まで沈んだ時、自分の体の周りを大きな空気の泡が包んでいるのが見えた。

この泡のお陰で水中でも喋ることが出来るし、呼吸も楽に出来るし、服が濡れる心配もないのだ。


十分程海底を歩くと、海底に大きくそびえる、白と青を基調とした城が見えた。レームとヒッグスは門衛に通され、城の中へと足を踏み入れていった。

城の構造はとても複雑だった。十字路や階段が幾つもあり、扉も数えきれない程並んでいた。レームは迷うことなく足早に進んで行くので、ヒッグスはついていくのに苦労した。

大きな両開きのドアの向こうに、広く豪華な部屋が広がっていて、一番奥には、煌びやかな貝の散りばめられた玉座があった。


玉座には、ルーシアが「座っていた」――ただし足はなく、代わりに、優美に反り返った青い鱗のひれがついていた。そう、ルーシアは人魚だった。ルーシアはふわりとカールした自慢の黒髪を、腹の辺りまで長く伸ばしていた。

「レーム、それに”涙”を拾った、ヒッグス。・・・・・・本当にこの少年が?・・・・・・ふぅむ、まあいい。ヒッグス、私はこの人魚界を支配する女神、ルーシアという。

私は、友であるウィーネに頼まれた事をするまでだ。・・・・・・さあ、この水薬をお飲み」

ルーシアはヒッグスに、瓶入りの緑色に光った液体を差し出した。


促されるままに蓋を開けると、何だか妙なにおいが漂ってきた。――花畑の芳しい香りがしたかと思うと、ゴミ捨て場の様に生臭い臭いがする。そうかと思えば、コーヒーの様な苦い匂い、といった具合だった。

液体は突然泡立ち始め、小さな緑の泡が表面までのぼってきては、ヒッグスの顔にはねる。

「お飲みよ、さあ」

「あの、これは・・・・・・?」

「体の奥底に潜む妖力、知力、体力全てを引き出してくれる素晴らしい薬。”ゴッド・ウォーター”。毒じゃないんだからさ、早くお飲み!どんなにうまくても、どんなにひどい味でも、とにかく一瓶飲み干さないといけないんだ。時間の無駄だから、ためらってないで早くお飲み」

ヒッグスはためらったが、覚悟を決めると、一気に瓶の中身を口へ注ぎ込んだ。

バニラアイスクリームと、泥と、コーラと、魚と、チョコレートケーキと、ほうれん草と、ケチャップを一緒くたにしたような味だった。――つまり、お世辞にもおいしいとは言えない味だ。

それを飲んだ時、ヒッグスの喉は、氷の塊を一気に飲み込んだように冷たくなった。

そうして最後の一滴をやっとの事で飲み干した時には、体の中を何だかわからない、今までには感じられなかった何かが駆け廻っているのをはっきりと感じ取った。


「ゴッド・ウォーターを飲んだ感想は?」

「変わってた・・・・・・いや、変わってました」

「それでいい。妖精も人魚も大体はこれを飲むが、うまいと言うやつなんかいないね。魔界の獣共は別として。」

「ルーシア様、ありがとうございました。

さぁ、次は妖術の訓練です。しかし、今すぐどうこうという話ではありませんね。帰って眠りたいでしょう・・・・・・。ヒッグス、光のアーチを心に思い浮かべて、『テームス』と唱えてみて下さい」

ヒッグスは息を吸い込んだ。そして、あの真珠を、あの光のアーチを思い浮かべた。


テームス!

奇妙な感覚が体中に走り、目の前が真っ暗になった。その次の瞬間、ヒッグスは光のアーチへ辿り着いていた。すぐ後にレームも続いていた。

「では、ここをくぐれば、あなたの部屋に着きます。暇があれば来て下さいね。」

「どうやって?」

「簡単な事ですよ。メフェルの涙に向かって、『光のアーチ、現れよ』と言えばいいだけです。消したい時は、『光のアーチ、消えよ』と言えば、メフェルの涙は一目につかなくなります。――メフェルの涙は、妖力を持たない他の人にとっては、ただの石ころに見えるので、捨てられないようくれぐれも注意して下さいね」

ヒッグスは頷き、光のアーチをくぐって懐かしい部屋へと帰っていった。