「ヒッグス!おやつよって、リサを呼んで来てくれない?返事がないから、多分庭にいるんだわ。」
「はぁいっ」
案の定、リサは庭にいて、せっせと泥団子をこしらえている最中だった。リサは、ヒッグスの五歳下で、七歳だ。
「リサ、おやつ!母さんが呼んでるよ。」
「お兄ちゃん、ケーキはいかが?」リサは嬉しそうに、兄に綺麗に丸めた泥団子を差し出した。
「ありがとう、でも僕、お腹いっぱいなんだ」ヒッグスは作り笑いで団子を断った。
「そう、残念。」
「リサ、お兄ちゃんと中に入って、おやつもらってこようか?」
「うん!リサ、喉乾いたなぁ。・・・・・・あっ、そうだ、おやつ食べたらリサと公園行こう?」
「うん、行こう。」
ヒッグスはリサのおしゃべりに付き合いながら、クッキーを食べていた。食べ終わる頃、リサが言った。
「これ、アリさんのおやつにするの!いいと思う?」
「いいんじゃない?喜ぶよ、きっと」ヒッグスは妹の無邪気さにふっと笑った。
リサは喜んで、折り紙で作った”おやつ入れ”にクッキーを一つ入れ、靴を履きに玄関へ駆けていった。
家のすぐ近所にある公園には、広い芝生が広がっていて、子供向けの遊具が充実していた。子供にとっては、この上ない楽しい場所だ。
リサが遊具に一人で駆けていったので、ヒッグスはひなたぼっこでもしようと、芝生に寝転んだ。
太陽が眩しくて、ヒッグスは寝返りをうった。すると何か、太陽の光を受けて 淡い光を放つものを見つけた。目を凝らすと芝生には、純白の、見事な真珠が一粒転がっていた。
――あれ?変だな。・・・・・・なんで公園なんかに真珠があるんだろ?誰か落としたのかな。持ち主に・・・・・・
そこでヒッグスの思考はストップした。白い真珠が、微かな青い光、続いて淡い銀の光を放ったのだ。
・・・・・・不思議と、持ち主に返すなんてことがとても馬鹿らしいことのように感じられた。
リサがこちらを見ていないことを確かめると、ヒッグスは真珠を拾ってそっとポケットに滑り込ませた。
心には満足感が広がったが。――しかし、罪悪感を微塵も感じなかった訳ではない。
その夜のこと。
――なんだか眩しかった。電気は消したはずなのに・・・・・・
目が冴えてしまって、ヒッグスは時計に手を伸ばして、暗闇に目を凝らした。まだ夜中の一時だった。
ふと、真珠の事を思い出して、ポケットを探った。しかし、真珠はポケットにはなかった。
床に落としたのか、失くしたのか・・・・・・とても気になった。なのでヒッグスは、電気を点けて真珠を探そうと決めた。
電気のスイッチまで歩いていこうとベッドから起き上がると、絨毯の上で、何かが光っているのが見えた。
・・・・・・真珠だった。真珠は絨毯の上で、ひとりでに淡い光を放っていたのだ。かと思うと、次は目も眩むような強い光。
何だか不気味だった。同時に、とても好奇心が湧いてきた。
ヒッグスはベッドから飛び降り、手を伸ばして真珠に触れようとした・・・・・・
すると、真珠は光を放ちながら、宙に浮かんだ。ヒッグスはその光景に圧倒され、立ちすくんだ。
真珠がヒッグスの頭上高くまで舞い上がった時、真珠から、またも光が放たれた。
光はアーチの如く広がり続け、ついに人一人通れるほどの広さになり・・・・・・
その時だった。アーチの向こうから人影が見え、白いワンピースをまとった、赤毛の女性が現れたのだ。
女性は口を開いた。
「ヒッグス、ですね?」
「なんで僕の名前を・・・・・・。そ、それに、なんで・・・・・・この真珠は・・・・・・?」
ヒッグスの質問には答えず、女性は続けた。
「私は、妖精界の者です。名はレームといいます。女神であるウィーネ様の側近を勤めています」レームは、驚いて口のきけないヒッグスに笑いかけた。
「この度は、ウィーネ様と、人魚界の女神であるルーシア様のご要望により、貴方様を妖精界と人魚界にお連れするべくやって参りました」
「・・・・・・妖精って、もっと小っちゃくて、羽が生えてるものかと思ったんだけど・・・・・・」ヒッグスは目の前にいる、母親とさほど背丈の違わない女性を見た。
「私共の祖先はそうでしたが、獣や魔界の者共から身を守るために大きく進化したのです。空を飛ぶ妖術が発明され、羽も不要となりました」
「ふぅん・・・・・・ところでこの真珠って、ただの真珠じゃなかったんだ?」
「はい。メフェルの涙と呼ばれています。――メフェル様は初代の女神です。――これは、メフェル様が真珠に妖術と知能を吹き込んだものです。
・・・・・・私は光の中から現れましたよね?メフェルの涙は、妖精界と人間界とをつなぐ、”光のアーチ”の役割も果たすのです。
さあ、妖精界の城にワープするとしましょう。」
「ワープ?待って、さっきから妖術とか、分からないんだけど・・・・・・妖術って魔法みたいなもの?」
「いいえ。妖術は、妖精が秘めた能力のことです。魔法は、魔族が使うものですから違います。
さあ、私の腕につかまって。・・・・・・テームス!」
奇妙な感覚が二妙程続いた後、ヒッグスとレームは、豪華な城の、玉座の前に立っていた。