大瀧詠一プロデュース 「ナイアガラ音頭 EP」ひとこと解説 その2

 

 

Let's Ondo Again ('81 Mix)

「ナイアガラ音頭 EP」で聴ける「 Let's Ondo Again 」は、アルバム「NIAGARA FALL STARS」に収録されていたバージョンです。

 

'78年の初版バージョンから一部の楽器を差し替えたうえで、'81年2月21日にミックスし直されました。

 

この時、メインのリミックス・エンジニアは大滝詠一さん自らが務めています。

 


 

今回、初収録されたカラオケの「 Let's Ondo Again ('81 Mix Karaoke) 」は、コーラス・パートなどがくっきりと聞き取れる貴重なバージョンですね。

 

では、「 Let's Ondo Again 」の源流へと遡ってみましょう。

 

「ツイスト No.1  (The Twist)」はチャビー・チェッカーが'60年にリリースしたシングルで、これをきっかけに世界的なツイストブームが巻き起こりました。

 

翌'61年に彼が歌ったのが「Let's Twist Again」でこれも大ヒットしました。

 

Chubby Checker 「 Let's Twist Again 」

 

ここで、Xの大滝詠一botさんのポストを借りましょう。

 

 

大滝さんは小6~中1の頃に、ツイストの流行に乗ったのでしょうか。
ツイストを踊る榮一少年の姿を想像するとほほえましいですね。

 

'76年の「ナイアガラ音頭」では、販売促進・宣伝策として、ディスコミュージックとのコラボで “ダンシング” を前面に押し出しました。(

参照 「ナイアガラ音頭 EP」ひとこと解説 その1

 

このときは布谷文夫のテレビ出演などもあり、第1期ナイアガラでの華々しい一瞬といえました。

 

その後…。


自信作だった'77年末のアルバム「ナイアガラ・カレンダー」が不発に終わったことが、大滝さんを “ダンシング路線” へ振り切らせたのでしょうか。
ナイアガラの華やかなりしシーンをもう一度!と…。

 

“ツイストをもう一度”というチャビー・チェッカーの曲をカバーして、「 Let's Ondo Again 」に仕立てるという奇手を、大滝さんは取り入れました。

 

布谷文夫(アミーゴ布谷) 「 Let's Ondo Again 」

 

Let's Ondo Again 」では、メロディは忠実に「Let's Twist Again」をなぞり、「ナイアガラ音頭」の“英語版”が1番、2番、3番のコーラスごとに付随しますが、大滝さんが特にオリジナリティを加味したのが、イントロ、間奏、後奏でした。

 

Let's Ondo Again 」のイントロで1小節ずつフレーズが継がれていく印象的なメドレーは、感興のおもむくままにつないでいるわけではなく、“引用”をキーワードにして、大滝さんのある意図が込められているのではないでしょうか。

 

軍艦マーチ

 

「軍艦マーチ」

 

Let's Ondo Again 」の冒頭では、「軍艦マーチ」の出だし部分が使われています。


この曲は1900年に初演され、明治末期以降に国内で広まっていきました。
昭和以前の旧い映画をみると、パチンコ屋のシーンでは「軍艦マーチ」がよく流れていたものです。

 

'66年から'67年に放送されたアニメ「ハリスの旋風(かぜ)」のオープニング・テーマでは、その「軍艦マーチ」の前奏を引用した旋律にのせて
 

♪ ドンガー ドンガラガッタドンガー ドンガラガッタ
 

と歌われています。

 

「ハリスの旋風」

 

不思議なことに「ハリスの旋風」と「軍艦マーチ」のメロディのつながりを指摘する声は、どこにも見当たらないのですが…。

 

上掲の「ハリスの旋風」の動画で聴かれる

♪ ドンガー ドンガラガッタ 

というフレーズは、クレイジーキャッツの「大冒険マーチ」(1965年)の中でハナ肇が歌った

 

♪ ドンガン ドンガラガッタ
 

という歌詞と関わりがあるのか、ないのか、如何に…。
「大冒険マーチ」は「実年行進曲」の主要な下敷きソングでもありますね。

 

ハナ肇とクレイジーキャッツ 「大冒険マーチ」

 

クレイジーキャッツといえば…。


「NIAGARA TRIANGLE VOL.1」の3人でカバーする予定だった「ホンダラ行進曲」(1965年)のイントロも、よーく聴くと「軍艦マーチ」の前奏のバリエーションだといえると思います。

 

「NIAGARA TRIANGLE VOL.1」で「ホンダラ行進曲」にとって代わって収録されることになったのが、ナイアガラ音頭」でしたね。

 

ハナ肇とクレイジーキャッツ 「ホンダラ行進曲」

 

 

宮さん宮さん

 

Let's Ondo Again('81 Mix)」のイントロ、間奏、後奏では、「軍艦マーチ」と“三味線”に続いて、

♪ ピ~ヒャラ ピッピッピ

と聞こえてきます。

 

布谷文夫(アミーゴ布谷) 「 Let's Ondo Again('81 Mix)」
(↑クリックorタップしてお聴きください)(頭出し済)

 

この「♪ ピ~ヒャラ ピッピッピ」という篠笛のフレーズは、「宮さん宮さん(トンヤレ節)」ですね。

 

篠笛

 

「宮さん宮さん」は明治維新の時期(1868年~)につくられた楽曲で、新政府軍の軍歌・行進曲として使われていたのが、後に庶民に親しまれ歌い継がれました。

 

同曲の来歴については、ナイアガラ・フリークでもある篠原章さんが力作のコラム記事にまとめられています。

お時間のあるときにゆっくりご覧ください。

【ますらおの歌ーー新撰 軍歌・戦時歌謡集】

 

春日八郎 「宮さん宮さん」

 

「宮さん宮さん」もまた様々な楽曲に引用されています。
♪ ピ~ヒャラ ピッピッピ」という“リフ”以外の、いわば歌メロの部分が多くのケースでは用いられています。

 

オペラ『蝶々夫人』

(↑クリックorタップしてお聴きください)(頭出し済)
 

オペレッタ『ミカド』

(↑クリックorタップしてご覧ください)(頭出し済)

 

さらに21世紀に入ってからも「宮さん宮さん(トンヤレ節)」は引用されています。

アース ノーマットのテレビCMをご覧になった方も多いのでは…。

アース ノーマット(じっちゃんばっちゃん編)
 

漫画やアニメの『鬼滅の刃』では、キャラクターの甘露寺蜜璃が 「宮さん宮さん」を歌うシーン もありました。

 

 

アニメ「ドロロンえん魔くん」(1973年)の主題歌も、「宮さん宮さん」をモチーフにして、小林亜星が作曲したのではないでしょうか…。

中山千夏 「ドロロンえん魔くん」

 

この「宮さん宮さん」については、大滝さんが『日本ポップス伝Ⅱ』(1999年放送)の番組中で詳しく述べていたのですね。

 

明治以降に、軍歌、行進曲とともにさまざまな文化が日本に持ち込まれた…という文脈で、大滝さんは「宮さん宮さん」について語り始め、そして、「軍艦マーチ」にもふれられたのです。


『日本ポップス伝Ⅱ』は、お時間のあるときにゆっくりお聴きください。

大瀧詠一の日本ポップス伝Ⅱ

 

 

マルセイユの歌

 

Let's Ondo Again 」のイントロで、続いて聞こえてくるのは、フランス国歌として知られる 「ラ・マルセイエーズ(マルセイユの歌)」です。
この曲もルーツをたどれば軍歌でした。

 

「ラ・マルセイエーズ」

 

「ラ・マルセイエーズ」もまた、古くはクラシック作曲家のシューマン、ワーグナー、チャイコフスキーらによって引用されてきました。

 

有名なところでは、ビートルズの「All You Need Is Love (愛こそはすべて) 」(1967年)のイントロにも引かれています。

 

The Beatles 「 All You Need Is Love 」

 

ゲーム音楽の「ドラゴンクエストⅠ 序曲」も、すぎやまこういちが「ラ・マルセイエーズ」をモチーフにして作曲したことがうかがえますね。
以下の動画のギリシャが入場してくるところ、有名なフレーズの頭をよーくお聴きください。

 

【TOKYO 2020】「ドラゴンクエストⅠ」序曲

 

 

アルバム「LET'S ONDO AGAIN」でブラスバンドのクレジットが以下のようになっているのは、「ラ・マルセイエーズ」と「軍艦マーチ」を演奏したことによるのでしょう。

 

Brass:早朝軍艦マルセーユ団

 

 

アロハ・オエ

 

Let's Ondo Again 」のイントロ、間奏、後奏は、単純に行進曲のメドレーであるかのように見えながらも、その合間にはハワイアンの名曲「アロハ・オエ」も差し挟まれています。

 

布谷文夫(アミーゴ布谷) 「 Let's Ondo Again('81 Mix)」
(↑クリックorタップしてお聴きください)(頭出し済)

 

♪ ピ~ヒャラ ピッピッピ 」の後に聞こえる1小節ですね。
 

この1小節のフレーズは、「アロハ・オエ」の“サビ”で登場するメロディですが、以下の動画では前奏の旋律として冒頭から演奏されているので、分かりやすいです。

 

「アロハ・オエ」

 

「アロハ・オエ」は有名曲の「パイナップル・プリンセス」にも引用されました。


'60年のアネットのオリジナル・バージョンで知られていますが、'61年の田代みどりのカバー・バージョンでお聴きください。
0:28~の箇所で当該メロディに歌詞をつけて歌っていますね。

 

田代みどり 「パイナップル プリンセス」

 

'73年9月21日の『CITY-Last Time Around』のステージでは、ココナツ・バンクの「ココナツ・ホリデイ」でも引用されました。

ココナツ・バンク 「ココナツ・ホリデイ」
(↑クリックorタップしてご覧ください)(頭出し済)

 

ナイアガラにおけるこの「アロハ・オエ」ストーリーについては、本ブログの 「暑さのせい EP」がよくわかる全曲ひとこと解説 の回の「05.Hankyu Summer Gift(Extended Version)」の項に詳しいので、お時間のあるときにご参照ください。

 

 

レッツ・オンドー・アゲイン

'73年に初披露された前述の「ココナツ・ホリデイ」は、'76年の「NIAGARA TRIANGLE Vol.1」では、装いも新たに「ココナツ・ホリデイ'76」として収録されました。

「ココナツ・ホリデイ'76」
(↑クリックorタップしてご覧ください)

 

「ココナツ・ホリデイ'76」のときの布谷文夫の“奇声”とハッスル気味なノリの模様が、「あなたが歌うナイアガラ音頭(Ondo De Hustle)」(1976年)の冒頭に足されているのですね。

ナイアガラ社中 「あなたが唄うナイアガラ音頭 (Ondo De Hustle)」
(↑クリックorタップしてご覧ください)

 

今回の「ナイアガラ音頭 EP」でも、その貴重な「あなたが歌うナイアガラ音頭(Ondo De Hustle)」を聴くことができます。

 

ナイアガラ盆踊り2024では、この「あなたが歌うナイアガラ音頭」のみに付随する“奇声イントロ”と、シングル・バージョンの「ナイアガラ音頭」とをつなげたレアな音源を聴きながら、皆さんが三日間躍りまくりましたね。

 

ナイアガラ盆踊り 2024

51:38~ ナイアガラ音頭
55:31~ Let`s Ondo Again

 

「ココナツ・ホリデイ」といえば…。

 

大滝さんによれば、「ナイアガラ音頭」と('73年のライブ版の)「ココナツ・ホリデイ」は、同じタイプのリズムの系譜の中にあるということです。
♪ どどっど どっど」という跳ねているリズムですね。

 

その「ナイアガラ音頭」といえば…。

 

オケ録りの際に、邦楽セッションと洋楽セッションとを別々にレコーディングし、ミックスの際にはそれらが見事に融合したことに対して、スタジオで同席していた山下達郎さんが絶賛した…というエピソードは有名です。

 

「ナイアガラ音頭」で実践された“純邦楽と洋楽との融合”といえば…。

 

細川たかしの歌う「Let's ONDO Again (レッツ オンド アゲイン) 」(1992年)も、“純邦楽と洋楽との融合”が見事でした。

 

細川たかし 「レッツ オンド アゲイン(オリジナル・カラオケ)」

 

'92年当時に市販された“吉田保ミックス・バージョン”では、


バスドラムの「♪ ドン ドン ドン 」と
スネアドラムの「♪ ツッツッタ(ウンウン)(ウンウンウン)タン 」との


洋楽的リズムをメインに、純邦楽リズムも透けて聞こえる、すっきり “オシャレさん” なミックスでした。

 

細川たかし 「 Let's ONDO Again (河田為雄ミックス) 」

 

他方、「大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK / NIAGARA ONDO BOOK」に初収録された細川たかしの「Let's ONDO Again (河田為雄ミックス)」は、揉み手で合いの手の手拍子を入れたくなる“純邦楽感”がありました。 
 

なぜなら、和楽器によって奏でられる


♪ ドドンパ ドン
 

という邦楽リズムを前面に出してミックスされていたからですね。

 

Let's ONDO Again (レッツ オンド アゲイン) 」は洋楽カバーの域を超え、“洋” “邦” 両面のエレメントを内包しているのですね。

 

ふたたび大滝詠一botさんのポストを…。

 

レッツ オンド アゲイン」の曲全体の建て付けは、布谷文夫版でも細川たかし版でも変わっておらず、当初から大滝さんの明確なコンセプトが、この曲に込められていたのだと感じられます。

 

純邦楽をベースにして洋楽の要素がどう取り込まれていったのか、そして、それらが融合して大衆音楽としてどのように醸成されていったのか…。

 

そんな歌謡史について大滝さんなりに研究発表した『日本ポップス伝』の世界を、'78年のアルバム「LET'S ONDO AGAIN」では既にサウンドで提示していたのが、すごいですね。
 

とりわけタイトル曲「 Let's Ondo Again 」のイントロ、間奏、後奏は、“引用の歴史”こそが音楽の発展を推し進めてきたのだ…、という大滝さんからの象徴的なサジェスチョンなのかもしれません。

 

今回も“ひとことじゃないひとこと解説”を最後までご覧いただきまして、誠にありがとうございました。