【最も貧しい国】
世界で最も貧しい国が、自分たちの国を競売に掛けました。
最低落札価格は国が抱える債務の総額です。
それを競り落としたのは世界で一番の大富豪でした。
債務は即日完済。
国土も国民も建物も、全て大富豪のものとなったのでした。
もうひもじさに耐える事も無くなるに違いない。
もう貧しさの為に誰かから奪われることも無くなるに違いない。
期待していた国民はいつ施しを受けられるのか、どれくらい施しをうけられるのかと、胸躍らせて待っていたのです。
施しは……もちろんありました。
しかし、資源も産業もないこの国を購入した大富豪の狙いは、彼らに安穏とした暮らしを提供することではなかったのです。
食料と供に彼らの前に置かれたのは、最新鋭の武器と兵器。
そして仕事を持っていなかった多くの者たちは、軒並み兵士として連れて行かれてしまったのでした。
兵士となった者たちは、武器を扱うための技術を教えられ、兵器をメンテナンスするための知識を与えられました。
もちろん最新鋭の兵器で活動するためには、高度な操縦技術も必要です。
作戦を決行する上で間違いが起こってはなりませんから読み書きは必須。
弾薬、兵糧を管理させるためには、数学も教えられました。
最新技術に対応するためには、プログラミングも学ばなければなりません。
戦争のためには多くの基地も必要です。
基地を設置するためにインフラを施設するノウハウも教え込まれたのでした。
強国に引けを取らない立派な軍隊となるには長い長い年月が必要でした。
そして国民たちは身に付けた技術によって、この国の産業も大いに発展させていたのです。
ただ、逆にその間多額の資金を投入し続けた大富豪は、いつしか無一文となっていたのでした。
けれども国民の誰もが、大富豪が貧乏になったとは考えていません。
なぜなら、そもそもこの国は、購入者である大富豪のものなのですから。
終わり
【未来の未来】
便利な世界に暮らしながら、それを窮屈に感じてしまっているのはどういうことでしょう。
疑問を挟む余地なく、便利、快適、楽しいと頭が信じているのに、体はしっかり無理を受け止めていようです。
体の言い分を、どこかの器官が矛盾として脳に報告しているのが、実はその窮屈の正体なのかも知れません。
この時代、人々機械の中で目覚め、機械の中で食事を取り、適度な心臓への負荷と筋肉への刺激があれば、一生機械の中から出る事はありません。
出るのは機械が壊れた時だけ。恋をするのも機械の中です。
不自由など一切ない暮らしであるはずなのに、なぜこんなにも多くの人が窮屈に感じてしまっているのでしょうか。
誰もが依存しているこのシステムは、宇宙旅行黎明期に創造されたものですが、私たちにとってごく当たり前の日常です。
SF小説なんて、突き詰めれば結論はすべて文明批判だなどと、乱暴なことを言う人もいました。
SFで描かれている世界の多くは未来の事。
私たちは今、過去の人から見た未来に暮らしています。
では、私たちの未来には、いったいどのような世界が待っているのでしょうか。
SF小説でよく描かれる、破滅的な世界にはなって欲しくはないものです。
終わり
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