まもるもの | ひより軒・恋愛茶漬け

まもるもの

両手のひらを

あなたの胸にあて

耳をすます。


慣れない

男の人の腕のナカに

包まれて。


あなたの

鼓動がさえぎるソト。


そのソトの世界で


ずっと閉じていた耳が

ため息をつく。


いつも

みんなと一緒にいたのに


どうしてあなたは


わたしがひとりだって

わかったのだろう。


笑顔と明るさだけが許される

その世界で


鋭さと怜悧さをうとまれながら


どんどん自分の上に自分を重ね

体温さえ感じない肌を刻み

その下にいるはずの

わたしを傷つける。


気づかぬうちに

わたし以外の

何かになることにおびえて。


かすかな痛み。

時々思う。


こんなに必死になって

守ろうとしたものは

何だったんだろう。


震えだす肩を

なだめるように

あなたは腕にチカラを入れる。


ブーツを履いた

わたしのかかとが

ほんの少しもち上がる。


あたたかい匂い。


長い間つぶっていた

目をあけて

あなたを見よう。


あなたと見つめあって

微笑もう。


それから

しっかり

ソトの世界を見る。


さっきまで

ソトだったあなたと一緒に。





氷を溶かすように

かたくなな心を溶かす

抱擁は、ある、と思います。