映画「レット・イット・ビー」は、

ビートルズのリハーサルやライブ演奏を記録することを目的としていましたが、メンバーの心はバラバラになり、解散に向かう様子を捉えたドキュメンタリー映画となっています。1969年1月30日にビートルズがアップル・コアのビル屋上でゲリラライブを行った様子も収められており、4人が人前で演奏した最後の機会となりました。

監督には、テレビの音楽番組でディレクターを務めたのをきっかけに、ビートルズやザ・ローリング・ストーンズといったロックバンドのプロモーション・フィルムを撮影するようになったマイケル・リンゼイ=ホッグを起用。ロンドンのトゥイッケナム・フィルム・スタジオで1969年1月2日、撮影が始まる。だだっ広いスタジオの真ん中あたりにこぢんまりとドラムセット、ピアノ、アンプ類、マイクスタンドなどが設置され、周囲には撮影用の照明も配された。

 

 1月のトゥイッケナムは寒く、また四六時中カメラを向けられる環境に、ポールを除くメンバーは早々にうんざりし始める。映画では、作曲者が楽器を弾きながらコード進行を説明したり、曲のアレンジを変更して合うかどうか確認したりする過程が収められているが、ジョージは自分が弾くリードギターのパートに細かく注文をつけてくるポールに腹を立て、ふてくされたように言い返す場面まで使われている。「なあ、そういう弾き方はしないでくれ」「どうとでもお望みどおりに弾くさ、僕に弾くなっていうなら一切弾かないよ」といった具合だ。



トゥイッケナムでのセッションは結局、10日足らずで終了する。

ジョージがギターを持ってスタジオを出ていき、そのまま戻らなかったのだ。



ジョージはメンバー全員に説得されて復帰する気になり、曲作りと収録が再開された。1月22日のことだ。



 その際、寒くて不評だったトゥイッケナムの撮影スタジオから、アップル社屋の地下に新設した録音スタジオに拠点を移すことになった。自分たちの会社のスタジオは居心地がよく、室内には暖炉まであった(ただし録音時はパチパチと燃える音が入ってしまうため、火を消さなければならなかったが)。映画本編では23分頃、ジョージの曲「フォー・ユー・ブルー」の間奏が流れるなか、次々に社屋に入っていく4人の姿が映る。



この屋上でのライブ、通称「ルーフトップ・コンサート」をもって、映画のための収録は終わった。ただし完了した当初、メンバーは楽曲の出来に不満で、半ばお蔵入りの状態になってしまう。



 4人は「次のアルバムで最後」の予感を胸に、同年2月~8月にレコーディングし、『アビイ・ロード』を9月にリリース。翌70年4月にポールが脱退を発表したことで、ビートルズは事実上解散となる。



 その1カ月後の5月に映画『レット・イット・ビー』が公開され、収録曲中の数曲にフィル・スペクターがアレンジを加えた同名アルバムも同じく5月に発売される。リリース順としては、『レット・イット・ビー』がビートルズ最後のアルバムとなった。