午後には 遠く三浦岬も見える。
ソーダ水の中を貨物船がとおる。
小さなアワも恋のように消えていった。
あのとき目の前で 思い切り泣けたら、
今頃二人、ここで海を見ていた。
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午後の穏やかな光が窓ガラスを通して室内に差し込んでいた。
小さな海辺のカフェで、窓際の席に座り、ソーダ水を注文した。
テーブルに運ばれてきたソーダ水のグラスは、光を受けてきらきらと輝いている。
ソーダ水をじっと見つめていた。
グラスの中で踊る小さな泡に、遠くに見える貨物船の姿が浮かんだ。
「ソーダ水の中を貨物船がとおる」とつぶやいた。
ソーダの中で泡が消えてゆく、映った遠ざかる船のように恋も消えていった。
「あのとき、目の前で思い切り泣けたら、」心の中でつぶやいた。
目の前で、恋人は静かに去っていったのだ。
残されたのは、消えない後悔と、ソーダ水の泡のようにはかなく消えていった恋。
ソーダ水を一口飲むと、シュワッという心地よい刺激が口の中を満たす。
再び後悔が襲って来た。
もしもあの時、思い切り泣いていたら、彼もまた、
涙を受け止めてくれたのではないか。
今、二人はここで一緒に海を見ながらソーダ水を飲んでいたかもしれない。
時間は遡ることができず、過去を変えられない。
深いため息をつき、もう一度窓の外を見た。
貨物船は視界から消えていた。
ソーダ水を飲み干し、立ち上がった。
過去の恋は消えてしまったけれど、海は変わらずにあり、
新しい明日が待っている。
前を向いて、カフェを後にした。
外に出ると、穏やかな海風が頬をなでた。
恋は消えたけれど、新しい何かが始まる予感を、心のどこかで感じていた。
海は今日も、明日も、静かに見守り続けるだろう。