マルグリッドはすぐにやってきた。

「あなたが会いたいというから、やってきたわ」

と言って、しばらくしてぼくの顔をみて泣き崩れた。

「どうしたの?」

「わたしを、随分ひどい目にあわしたわね、アルマン。

わたしのほうは何もしなかったのに」

「なんにも、しなかったって?」とぼくは苦笑した。

「理由があって、どうしても、そうしなければならなかった以外はね」

ぼくは、やはり、マルグリッドを愛しているんだと実感して

これまでの様々な思い出が、かけめぐり、

不思議な絶句状態だった。

マルグリッドが切り出した。

「アルマン。ご迷惑でしょうけど、わたしあなたにふたつだけ、

お願いがあるの。

わたしがオランプに言ったことは許してちょうだい。

それから、もうひとつは、きっとこれからも、

わたしをいじめるおつもりでしょうけど、もう堪忍してほしいの。

あなたがパリに戻ってこられてから、わたしをずいぶん苦しめたわね。

もう堪えられないの。もうだめよ。

どうかわたしみたいな病人の哀れな女に復讐なんかするのはやめてよ。

ほら、わたしのヒタイをさわって、熱があるのよ。

やっとのことで、ここまで来たのよ。

わたしを。このままそっとしておいてくださらない?

お願いだから」

マルグリッドのヒタイに手をあて、熱があることを知りました。

そして、手をとると、がたがたと震えている。

ぼくはマルグリッドを、暖房のそばまで、椅子ごと運んで言った。

「じゃ ぼくが苦しんでいなかったと思っているのかい?

あの夜、ぼくはずっと待っていたんだ。

そしてパリに行って探し回ったよ。

戻ったら、ぼくが見つけたのは、あの手紙だ。

あれを読んで、ぼくがどんなにショックを受けたか。

ぼくは気狂いになるところだった。

マルグリッド。

どうして、ぼくを裏切るようなことができるんだ。

ぼくがきみを愛していることはわかっているだろう?」

「そのことは、もうお互いに話さないことにしましょうね。

アルマン。 もう終わったことよ。

もうあなたにはオランプという若いきれいな恋人がいるんですもの。

どうぞ、オランプとお幸せになって、わたしのことは忘れてくださいな」

「きみだって、幸せに暮らしているんだろう?」

「わたしが、幸せに暮らしている顔をしてて?

お願いだから、わたしの苦しみをお笑いにならないでよ。

わたしが、どうして深く苦しんでいるかは、

だれよりもあなたが一番よくご存知でしょう」

「ぼくにはわからないよ。

もし、今のきみが不幸だというのなら、

きみに捨てられたぼくは、どうなるんだ。

きみが不幸だなんて嘘だね」

「あのときは、やむをえない事情があったの。

いつかわかっていただけると思うの」

「いま、聞きたいよ、その理由ってやつを」


原則月曜日掲載


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