夏目漱石の講演「模倣と独立」親鸞聖人

 

夏目漱石は講演「模倣と独立」の中で、親鸞聖人の「肉食妻帯」という断行を、単なる破天荒な振る舞いではなく、強靭な精神の表れとして高く評価しました。この視点に基づき、その思想の根底にある「独立の精神」について考察します。


孤独と覚悟の「肉食妻帯」

親鸞聖人が歩んだ道は、当時の仏教界の常識を根底から覆すものでした。僧侶でありながら肉を食べ、妻帯するという行為は、一見すれば堕落や妥協に見えるかもしれません。しかし、漱石はその背後に、世俗の批判をものともしない「非常な思想」と「非常な力」を見出しました。

伝統からの脱却と真実の探究

当時、戒律を守ることが修行の絶対条件であった時代に、親鸞はあえて自らを「非僧非俗」の立場に置きました。これは、形式的な模倣に安住することを拒絶し、「人間としてどう救われるか」という真実を徹底的に突き詰めた結果です。

漱石が説く「独立」の本質

漱石がこの例を挙げたのは、真の独立には「強い根底」が必要であることを示すためでした。周囲の目に怯え、借り物の思想で生きる者には、これほどの大改革は成し遂げられません。親鸞の強さは、自分の弱さや人間の業(ごう)を直視し、それを引き受けた上での自己信頼にありました。

現代への示唆

私たちは往々にして、他人の評価や時代の流行という「模倣」の中に安心を求めがちです。しかし、親鸞が示したのは、たとえ孤独であっても、自分自身の内なる確信に従って生きる勇気です。その「非常な力」こそが、時代を超えて人々の心を打つ普遍的な価値を生み出したのです。