いろんなことがあったがなんとか受験準備に入ることができた。
父はまだ入院しているが、少し元気になってきていた。
新しく指導を受けることになったKT先生のお家は、バスと私鉄で1時間くらいかかるところにあった。
まずはどの専攻を志望するかということが問題であった。
自分では、ピアノはやってみたいのだが高校で2年ほどのんびりやってしまった。
しかもテキストが進んでいないし、実力不足だ。
KT先生は、演奏家を目指すピアノ専攻もがんばれば合格できる可能性はあるが入学してからかなり苦労するだろうと、おっしゃった。
上位の学生は、ピアノコンチェルトなども弾いてしまうような人達らしい。
音楽教育専攻は、声楽の試験曲のイタリア歌曲を猛練習してピアノの試験曲もがんばれば受験できるのだが、入学してから管弦打楽器の中の楽器の一つをピアノ、声楽と一緒に4年間勉強しないといけないらしい。
私が気になっていた音楽学専攻でピアノを専攻実技とするというのがあったのだが、なんとKT先生はそこで指導なさっている先生だったのだ。
その専攻は簡単に言うとピアノ演奏について研究する音楽家を目指すという感じだそうだ。
しかし、出願の時に試験曲の楽曲分析をしたものをあらかじめ提出しておき、それに基づいた口述試験があるらしいのだ。
勉強することがたくさんあるので大変だ。
KT先生にもその専攻の大学での勉強が私に合っていると言われて、音楽学専攻ピアノコースの専願で準備することになった。
人によっては、ピアノ専攻や声楽専攻と音楽教育専攻を併願するらしい。
ピアノの試験曲は2曲用意するのだが、一つはベートーヴェンソナタ作品10の1 第1楽章となった。
もう1つは、バッハシンフォニアから1曲であった。
まずはベートーヴェンソナタを必死で譜読みをしていった。
KT先生のレッスンは魔法使いのようだった。
あれほど子供のころから悩んでいた速く弾くところになると、手の疲れや力の抜けないことが嘘のように直っていった。
手首を柔らかくすること、手の形は自然にといわれて、自分は子供のころから今まで全く逆の事をしていたと思ってしまった。
指を上からふりあげ鍵盤に直角くらいの角度にあてて弾くといわれて、できなくて悲しかったのだ。
他にはソルフェージュを毎週レッスンしていただくのだが、小学生の頃にY先生がずっとレッスンしてくださっていたため、すぐにG大学の出題傾向に合わせた問題をやっていくことができた。
今更ながら、Y先生にすごく感謝する気持ちだった。
ただ書き取り方がY先生と違って、はじめから小節を区切っておいてメロディを入れていく書き方だった。
この書き方だと途中で分からなくなっても、書けなくなることがなかった。
おかげで旋律聴音はかなり得意になったため、自分の力になった。
和音聴音もあったのだが、四声体はなく長短増減属七の和音の聞き分けと書き取りだった。
自分で数えきれないほどの和音を録音して、何度も繰り返し聴きながらそれぞれの和音の響きの特徴を頭の中に叩き込んでいった。
楽典はKT先生から指示された1冊のテキストを頑張って覚えて勉強していった。
そして夏休みには、G大学で行われる夏期受験講習会に行くのであった。