ショートコラム 「美の時 倫の刻」 
      (火・木・土)連載
 

 第十六回 小泉今日子「夜明けのMEW」をめぐって

 マキタスポーツ氏が提唱する「第一」「第二」、あるいは「表」「裏」の芸能界の二分法に対して、その区劃を軽く跨ぎ越える(トランスする)存在・小泉今日子さん(マキタスポーツの著『越境芸人 増補版』)より)。当コラムでも度々取り上げることになるが、キョンキョンからの一曲目は、彼女の中でも決して目立つシングルではない。が、たぶん、大好きな人も多いはずのミディアムなポップ・バラード。
 1986年7月リリースの「夜明けのMEW」。
 みんなの度肝を抜いた「なんてったってアイドル」から、約一年後。はちゃめちゃに元気がよく、ピッカピカのアイドルだが、メタレベルの戯れをあからさまに打ち出した「コイズミ!」の中でも、ピュアな響きの一曲。
 ティーンエイジャーか、大学生くらいの男女の交際が破綻する夜明けを、男目線で歌っている。
 作詞・秋元康、作曲・筒美京平のパワフルなコンビ。さすがの仕上がり。
 だが、この曲のMVPは、編曲の武部聡志だと思う。前奏の電子音のメロディで、泣き出したくなるほどナイーブな感性へと連れて行かれるのだ。
 小泉さんの歌声はやはり不安な感じがあるのだが、その分、「なんかいいな」と感じられる。
 当時、夜更けのラジオ番組でこの曲を聴いた時の衝撃は、今も忘れられない。 

 まだ聴いたことのない若者たちは、ぜひ聴いてみて下さい。
 あるいは皆さん、聴き直して、あのピュアな感じに浸ってみませんか。
  
 小泉今日子「夜明けのMEW」(1986年7月)
    作詞・秋元康
    作曲・筒美京平
    編曲・武部聡志


            藤谷蓮次郎
                二○二二年四月七日