ショートコラム 「美の時 倫の刻」 
      (火・木・土)連載
 

 第三回 松田聖子「雨のリゾート」に聴き惚れ
 

 導入コラム動画、2022年3月18日添付

 ↓をクリックして下さい。


 松田聖子さんに関しては、大変に意識的に「アイドル」を演じた、超優秀な「アイドル脳」の持ち主、という印象。
 様々な話題を振りまいて、80年代の日本の「歌謡曲」を引っぱった人物。私の世代からは少し年上なので、同級生にも熱狂的な「聖子ファン」がいたわけではなかった(同時期にデビューした田原俊彦さんが教室内の女の子たちを熱狂させていたことを考えると、やはり年上の男の子と女の子では、社会的な影響対象が違ったのだろうか)。聖子さんの場合、私の勝手な印象では、男の子たちより女の子たちからの支持が大きかったように思う。
 とはいえ、圧倒的なのは、「聖子曲」の素晴らしさ。
 あのころ、三ヶ月置きくらいのペースでリリースされる聖子さんの曲のインパクトは、すさまじかった。それらは、今聴いても、色あせない。
 よく言われることであるが、様々なミュージシャンによるメロディと、主に松本隆による詞の見事な完成度。
 この企画でも、今後たくさんの曲を取り上げていく予定だ。それをいろいろと考えているだけで、ワクワクさせてもらっている。

 さて、松田聖子さんの一曲目で取り上げるのは、「雨のリゾート」。
 超メジャーなライン・ナップとなるシングル曲ではなく、あえてアルバム『風立ちぬ』(1981年10月)の収録曲。シングルカットされていないナンバーだ。
 曲の感じとしては、私はロネッツのようなオールディーズ・ポップスを連想した。中間部(定番の「タン、タタン」というリズムが聞こえます)からサビへの高まり方がとても気持ちよく、アメリカ的な大学生のドライブ・デートの情景が広がる。
 そういう、懐かしくすこし甘酸っぱいメロディを作ったのは、私の最も敬愛するミュージシャン・杉真理。詞とアレンジは、杉が師と仰ぐ大瀧詠一とともにかつて「はっぴい・えんど」として活動した松本隆と鈴木茂。杉たちの愛するオールド・ポップスの世界が、才能の塊のようなヒロイン・松田聖子を得て、日本の情景に息づく。
 松田聖子さんというスーパースターのキャリアをひとまずおいて、可憐で繊細なハイティーンの女の子のキュートさを楽しむべき一曲。
 
 さて、今回、敬愛する杉さんと聖子さんが、聖子さんのライブでこの曲をデュエットする音源を見つけた。昔は全く気がつかなかったのですが、聖子さんの歌手としての表現力の豊かさに圧倒された。
 聖子さんが持っていたのは、「アイドル脳」より前に、それを肉体的に具現できる歌声だったのだと、今、思い知らされた。
 こんな表現ができる人が、あのころ(八十年代前半)は毎日のようにテレビで歌っていたのに、私はその歌声の良さを感じたことがほとんどなかった。
 ジュリーも、秀樹も、ひろみも、そして聖子も、…。私はほとんど何も聴いていなかったのだなと、恥じ入るばかり。
 あるいは、何かが時代ともに変わったのかもしれません。
 
 だから今、彼らへのリスペクトを捧げるコラムを配信しています。
  

    松田聖子「雨のリゾート」(1981年10月のアルバム『風立ちぬ』収録)
     作詞・松本隆
     作曲・杉真理
     編曲・鈴木茂

               藤谷蓮次郎
                二○二二年三月十日