コラム 落語名演音源二八
十九席目
三遊亭円丈「わたし犬」
WAZAOGIより発売のCD「三遊亭円丈 落語コレクション 4th 新寿限無・わたし犬/名古屋版金明竹」(WZCR-01004)
三遊亭円丈師については、長いエッセイを書き(「三遊亭円丈論」)、今回の音源探訪でも、すでに一度取りあげている。私自身の円丈師についての考えは、当ブログに載せているそれらの文章を読んでいただくとして、ここでは繰り返さない。
ただ、長編エッセイでもメインの一席として取りあげた、この「わたし犬」の魅力だけ短く書かせてもらう。
ある冴えないサラリーマン。見てくれの悪い、冴えない野良犬に八つ当たりする。が、この犬の様子がおかしくなったことに気付き、慌てて獣医を探すが…。
「みっともない」「取るにたらない」「誰にも構われない」・・・。そういう存在としての「わたし」の惨めさと、それゆえにさらに弱い者をいじめ、少しの解放感の後に襲ってくる大きな後悔…。
他の何かに憑依する「シュミラークル」である「わたし」を描く、円丈落語の本質的な一席。
哀しさの他に残るこの感情は何だろう…。
藤谷蓮次郎
二○二二年二月三日