コラム 落語名演音源二八 



 四席目

    金原亭馬の助(初代) 「七段目」
     ポリドール「NHK落語名人選44」のCD(POCN-1084)

    

 ここまでの名人上手に比べると、知名度ではやや劣るかも知れない。
 初代馬の助は、五代志ん生の弟子だが、四十七歳と落語家としてはかなり若い年齢で死去された噺家。戦争時には、馬生とともに志ん生一家を支えたと伝わる。なお、志ん生いの満州慰問時には、八代文楽の弟子ともなったという。苦労人で、早く亡くなったことを考えると、どうしても繋げて考えてしまうのだが…。噺家としては、志ん生に入門以来、約三十年の活躍だった。

 私は、この「七段目」の一席だけで、馬の助という落語家が大好きになった。
 芝居狂いの若旦那が小僧の定吉とともに、「忠臣蔵」の七段目を演じるという、単純な落語。オチもシンプルだ。
 だが、音曲仕込みの華やいだ雰囲気に彩られ、若旦那も定吉も、実にチャーミング。馬の助の声は、この二人の滑稽さを、実に可愛らしく感じさせてしまう。
 一席聞き終わって、楽しい魔法にかかっていた気分になる一席。

 金原亭馬の助。
 この一席だけでも、私のように、魔法にかかるかもしれませんよ。

 

   藤谷蓮次郎

    2022年1月7日