リピート公開
 1980年12月シングル
  (ここでは、アルバム「G.S. I LOVE YOU」のバージョンを取り上げる)

 2022年2月8日に追加した動画です。
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Jビート エッセイ987 73

 

 アルバム全曲アプローチ(② 沢田研二「G.S. I LOVE YOU」)
 沢田研二 7曲目・絶品「おまえがパラダイス」をめぐって

 

 沢田研二「おまえがパラダイス」
  作詞・三浦徳子
  作曲・加瀬邦彦
  編曲・伊藤銀次

                                                               
 言わずとしれたシングル・カット曲。三連符で刻まれるギター・サウンドのロック。

 

 最初に告白する。私は、この曲がリリースされた当時、あまり好きではなかった。前曲が「酒場でDABADA」(1980年9月)で、小学生の私にはいやらしい歌に聞こえていたし、次のこの曲も少し地味な感じで、私にとってのスター「沢田研二」が何か遠くに行ってしまったように思えた。子供の自分には恥ずかしかったり、ピンとこなかったりだけど、大人には面白いのかなあ、と…。ただ、ギターの人の髪の毛をかきむしりながら歌う仕草は面白かったのだが(ギターの人が、なぜか無抵抗にかきむしられている。このギタリストの方、今もジュリーのツアーでギターを弾く柴山和彦さん?)。
 しかし、それから約十年後、ある男が私に言ったのだ。
「ねえ、これは名曲だよ! イカしてるよ!」
 その男は、私の大学時代の親友Fくん。彼とは音楽とは別のサークルで知り合ったのだが、東京生まれ東京育ちのその同級生とは、カラオケに出かけた際に、「とびきりのジュリー好き」という一点で意気投合。「コバルトの季節の中で」、「勝手にしやがれ」、「危険なふたり」という王道ポップ・ロック歌謡曲を熱愛する私に対し、このFくんは、「おまえがパラダイス」、「ロンリー・ウルフ」などのロックン・ジュリーにいたくご執心の様子。二人でカラオケに行っても揉めなかったのは、そういう嗜好の違いがあったからかもしれない。だが、当時の私は彼の熱のこもった解説を聞いても、「おまえがパラダイス」がいい、という彼の感性はピンと来なかった。
 大学卒業後、彼が事情があって東京を離れて以来全く会わなくなり、かれこれ四半世紀経つ。
 Fくん、君はいまどこで、どうしてるの?
 で、約二十五年経って、今、君に言うよ。僕は間違ってはいなかったけれど、君のセンスは僕よりずっと上だ! 僕が保証する。
「おまえがパラダイス」。絶品だよ!
 こんないい曲、あの時の僕は気づけなかった。今、君とジュリーについて話し合ったら、なんて言ってくれるかな?

 

 個人的な思い出を話してしまい恐縮だが、私にとっては、この曲はここから話し出さないと始まらなかったので、ご容赦を。

 さて、この曲は、主に四つの要素が混じって、ロック好きには堪らない曲となっている。
 まず、一番の殊勲者は、「悠揚せまらぬ」と言った感じのメロディー。「想い出の渚」(1966年11月)という「必殺メロディー!」を持つ加瀬邦彦らしく、大きく分けて二つの構成ながら、どこかノスタルジーを漂わせて心地よい後味。コードはDから始まるベーシックな展開だが、それを全編に三連符をちりばめて歌い通す不貞不貞しさ! これこそ、加瀬メロディーの傑作の一つではないかと思う。子供のころの私は、大きく変転しないこのメロディーをいささか地味に感じたのだが、今聴くと、こんなことが堂々とできる作曲家がいたのだ、と驚異に思う。
 次に、伊藤銀次アレンジのギター・サウンド。メロディーからリズムから、複数のギターで圧倒的な世界観を屹立させている。もちろん、ドラムス&ベースの影が薄いわけではない。ただ、この三連符の世界の腰回りをぐるぐると行き交うギターの存在感が濃厚すぎるのだ。言うまでもなく、音を歪ませたギター・サウンドは、ロック好きの大好物ではないか。また、二番になると浮き上がって前面に出てくるキーボードとバッキング・ボーカルも、ロックであり歌謡曲でもあるという定番性をきちんと守って盛り上げている。
 そして、ジュリーの声。「ジュリー好きの人は、これを聴かなくちゃ!」という気がする。とはいえ、前述したように、私自身この曲に惚れたのは最近なのだが。
 ジュリー好きの皆さんは、このジュリーの三連符、たぶんたまらないだろう。声質の艶と中低音域に広がる音程、さらにはあの一音一音明確に発声する彼のボーカル・スタイル。これらが全て合わさって、とんでもない色気の総量だ。もっともジュリーが色っぽい曲の一つだと言っていいと思う。
 最後に、三浦徳子の歌詞。女を捨てて離れていた男の(たぶん自分勝手な)帰還を歌っている。その二人にどんなドラマがあったのかは全く触れられていず、男の執着のみが歌われて、ストーリーの盛り上がりはない。だから、ジュリーがギタリストの髪をかきむしるアクションが用意されたのかもしれない。だが、そういうシンプルさも、加瀬メロディーが要請したものではないかと思う。歌い出しの「A・AI /・A~・O・A・E~」(・が子音)の母音の響きから、見事にジュリーの声を三連符に乗せきっていると思う。いいなあ…とウットリするようなジュリーの声を引き出してくれている。特に、サビ前のウォウの三連符がしびれる。
 なお、これはいつか取り上げてみたいテーマなのだが、女性の作詞家が男の視線で歌を作ると、「女の体」にこだわった歌詞がよく出る気がする。子供のころの私を赤面させた、道路のカーブと女性の体を重ねるところなど、男の作詞家ではあまり見ないような気がするのだが。
 まあ、これは今後のテーマということで。

 

 最後にまとめを一言。
「おまえがパラダイス」、最高!
 こういう曲が作られたことが、「G.S. I LOVE YOU」セッションの素晴らしさを刻みこんでいると思う。
 Fくん、そうだよね?


                       藤谷 蓮次郎
                         2021年9月15日

 再公開 12月16日。

 再再公開 2022年3月18日