やあ、ブルース・ボーイ!

 

ある卒業生の手紙から

 

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 とりあえず私は、三年生のときの担任と話した。彼女は何も知らなかった。それから、今でも時々顔を出す女子の卒業生にコンタクトを取った。その連絡先は本人から聞いて知っていた。彼女は在学時から、クラスや部活の世話役のような役割をしてくれた人物で、卒業後の同窓会の連絡役も務めてくれていた。
 私は彼女に電話し、彼の連絡先を私に教えてもいいかと彼に打診してくれるよう、頼んだ。出来れば、彼の自宅の電話番号の方がいい。嫌がるなら、彼自身の携帯番号でもいいが。
「連絡、取れないんです」
 数日後、間に入ってくれた生徒が、電話をかけて来た。「LINEもずいぶん前に外れちゃったし、電話しても出ないし」
「そうですか。…ありがとう、忙しいところ、悪かったね」
「でも、先生、たしかに私も心配なんです…」彼女は声を低めて言った。「何ヶ月か前、最後にみんなで遊んだ時に、『嫌になった… もうダメさ…』って、何回も繰り返し、まるで歌うみたいに独り言を言ってたんです。うまくいってないのかなって…」
 私は彼女の親切に礼を言って、また卒業生を集めて食事でもすることを約束し、電話を切った。
「嫌になった… もうダメさ…」
 そう言いながら生きている、大学生の男の子を想像した。いたたまれない思いに駆られた。私自身、この言葉を一人で繰り返してみた。何度も、何度も。
 そのうち、「嫌になったぁ もうダメさぁ」に、メロディーがついてきた。それはたぶん、大学院生だったころ何度も歌った「嫌んなった!」というタイトルの歌だ。ところが、何度考えても、誰の歌かが思い出せなかった。
「もしかして彼は、『歌うように独り言を言ってた』んじゃなく、本当に『歌ってた』のではないだろうか? それが周囲から、変な感じに見られているのか…?」
 私は、彼からの連絡を待ち続けた。
          

             (第一章に続く。第一章は、明後日の19時に公開)